【気候科学】化石燃料補助金の撤廃による影響の評価
Nature
2018年2月8日
Climate science: Assessing the impacts of fossil fuel subsidy removal
化石燃料補助金の廃止が全球的なエネルギー需要と二酸化炭素排出量に及ぼす影響は比較的小さく、廃止したとしても2030年までに再生可能エネルギーの消費量は増えないことを明らかにしたモデル研究が、今週発表される。この結果から、補助金の廃止で化石燃料輸出国の二酸化炭素排出量が削減できることが判明したが、大部分の地域では排出削減量がパリ協定の気候に関する誓約に定める削減量を下回っており、一部の地域では排出量の増加につながる可能性が指摘されている。
G20参加国は、2009年に化石燃料補助金の段階的廃止を約束し、2016年にこれを再確認しており、補助金撤廃が低効率のエネルギー消費を抑制し、再生可能エネルギーの競走条件を公平にして、気候変動の緩和に重要な役割を果たすことを期待している。しかし、こうした目標にもかかわらず、たとえ世界中で化石燃料補助金を廃止したとしても、気候変動の緩和に大きな影響を与えられるのかどうかは分かっていない。
今回、Jessica Jewellたちの研究グループは5つの統合評価モデル(IAM)を用いて、化石燃料補助金の撤廃が二酸化炭素排出量とエネルギー需要に及ぼす全球的、地域的影響を評価した。その結果、3つの石油・ガス輸出地域(中東・北アフリカ、ロシア、ラテンアメリカ)で、2015年の全世界の化石燃料補助金の約3分の2を占めていることが判明した。また、開発途上国と新興国(インド、中国、その他のアジア諸国とアフリカ)の現在の補助金は、化石燃料輸出国より低額だが、将来的には伸び率が上昇する可能性のあることも明らかになった。補助金改革が行われない場合には、インドでの補助金が2030年にラテンアメリカとロシアでの補助金と肩を並べる可能性がある。
Jewellたちは、補助金の廃止によって高所得の石油・ガス輸出地域で最も大きな二酸化炭素排出量削減が達成されると結論付けている。これらの地域での削減量は、パリ協定の気候に関する誓約に示されたレベルを超えると考えられており、補助金廃止の影響を受ける貧困ライン未満で生活する人々の数も低所得地域より少なくなると考えられている。これに対して、インドやアフリカなどの地域では、石油と天然ガスの代わりに炭素分の多い石炭が使用される確率が非常に高いため、全世界で補助金廃止プログラムを導入することで二酸化炭素排出量が増えてしまう可能性がある。
doi: 10.1038/nature25467
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