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関節リウマチ:炎症性関節疾患におけるアディポネクチンの多様な役割

Nature Reviews Rheumatology

2009年12月1日

Rheumatoid arthritis The multifaceted role of adiponectin in inflammatory joint disease

アディポサイトカインは通常、脂肪組織内で生成され作用するシグナル伝達分子と認識されている。しかし、最近のデータでは、アディポサイトカインの中でも特にアディポネクチンが、生体において明らかに防御作用を示すわけでもなく、有害なだけでもない、さまざまな機能を果たしていることが示された。

The Journal of Rheumatology の9月号で発表された研究で、Laurbergら1は、DMARD未投与の早期関節リウマチ(RA)、慢性化したRA、あるいは変形性関節症の患者と健常者で、血漿中アディポネクチンの濃度が異なるかどうかを調べ、さらにメトトレキサート投与によりアディポネクチン濃度が変化するかどうか、そしてアディポネクチンがRA患者の疾患活動性と相関しているかどうかという点も検討した。その結果、健常対照者と患者の血漿アディポネクチン濃度が顕著に異なることが明らかになった。また、慢性 化したRA患者にメトトレキサートを投与すると、アディポネクチン濃度が有意に13%上昇することも示された。しかし、血漿アディポネクチン濃度と疾患活動性、BMI、年齢、性別の間に、相関関係は認められなかった。

これとは別に、Gilesら2は、肥満RA患者において、過去に被ったX線学的損傷に対し、血清中アディポネクチンが保護的役割を果たすかどうか検討し、Arthritis Care & Research に発表した。彼らは、平均BMI 28.4±5.3kg/m2のRA患者197例を対象として、全身の二重エネルギーX線吸収法で総体脂肪量と局所体脂肪量、除脂肪体重を測定し、腹部CTで内臓脂肪面積を測定した。さらに、手部と足部のX線写真からsharp/van der Heijde変法スコアーを求めた。主な所見は、RAにおけるリウマチ因子濃度との相関と同様に、アディポネクチン濃度上昇とX線学的関節破壊の間に独立した強い相関が認められたことであった。さらにこの相関関係は、すでに知られているHLA-DRB1の共有エピトープアレル(shared epitope)やCRP濃度とX線学的関節破壊進行の相関よりも強かった。アディポネクチンとX線学的関節破壊との相関は、罹患期間の長い患者において最も強かった。したがって彼らは、アディポネクチン濃度、特に関節における局所的濃度を調節することが、RAの関節破壊を防止する新しい戦略になりうると結論づけた。

インターロイキン(IL)-1、IL-6や腫瘍壊死因子(TNF)などの“従来の” サイトカインに加えて、もともと脂肪組織で同定された細胞間情報伝達分子-いわゆるアディポサイトカイン-も、免疫調節機序や基質改変機序を介し、炎症性関節疾患の病態形成に関与しているエビデンスが増えてきている。30kDaアディポネクチンモノマーは、三次元構造がTNFに似ており、最も性質がよくわかっているアディポサイトカインファミリーの一員である。脂肪細胞とその他の間葉細胞から分泌され、総血漿蛋白質の0.01%を占める。アディポネクチンモノマーは通常、C末端でC1q様三量体球状頭部ドメインと、コラーゲン様三重らせん体を形成し、“bouquetof fl ower”と呼ばれる構造をとる。これは補体C1qファミリーの他の蛋白質と同様である。

AdipoR1とAdipoR2という2つのアディポネクチン受容体が報告されている4。双方の受容体とも、アディポネクチンisoformに選択的に、あるいは様々な親和性で結合し、おそらく別のアディポネクチンが誘発するシグナル伝達カスケードの活性化を介して、さまざまな細胞機能を生じさせる。代謝性疾患患者を対象とした研究で、血清アディポネクチン濃度はBMI・レプチン・インスリン・血糖値とは負の相関を、高比重リポ蛋白質濃度とは正の相関を示した。また、脂肪細胞におけるアディポネクチン生成は、インスリンと炎症性サイトカイン(IL-6とTNFなど)により制御されている。アディポネクチン濃度の低値は、肥満、2型糖尿病、アテローム性動脈硬化症と関連している。

アディポネクチンには代謝関連機能に加え、強力な免疫調節機能も有している。例えば、骨髄単球性前駆細胞の増殖阻害、食作用活性、マクロファージからのTNF放出、単球か らのTNF誘発性の血管接着分子1(CD106としても知られる)、細胞間接着分子1(CD54としても知られる)、そしてEセレクチンの接着と発現低下である。また、内皮細胞のTNF誘発性IκBαリン酸化とNFκB(核因子κB)活性化も阻害する。これらの観察結果は、アディポネクチンの効果は主として抗炎症性・抗接着性であるという仮説を特に支持している。

これとは対照的に、アディポネクチンがRAにおけるエフェクター細胞の発現プロファイルに強力な影響をおよぼし、細胞内蛋白質キナーゼおよびNFκB経路を介して、IL-6やマトリックスメタロプロテアーゼなどの炎症促進性分子およびマトリックス分解酵素を産生させることが最近のデータで示された。さらに、アディポネクチンによる刺激は、培養したヒト骨芽細胞でNFκB活性化受容体リガンド(RANKL)を誘発し、オステオプロテジェリン生成を抑制して、バランスを破骨細胞生成へと向かわせる。

アディポネクチンが多様な性質を持ち、さまざまな病態に関与し、そして標的細胞に対する強力な作用を考慮すると、アディポネクチンのさまざまな疾患における影響をより詳細に明らかにすることが非常に興味深いことだと考えられる。Gilesら2とLaurbergら1は、RAやその他の関節炎の生物学的・構造的な面における、血漿アディポネクチン濃度の二重の役割について包括的な解釈を行っているが、彼らの結論から両グループとも同じ疑問が導かれた。すなわち、血清アディポネクチン濃度は、炎症性関節疾患の発症において予防的役割を果たすのか、それとも促進的役割を果たすのか?

データ解釈の大部分は、特定の専門領域に関心のある専門家によるものにとどまるが、現在得られているエビデンスからいくつかの結論が引き出せる。まず第一に、アディポサ イトカインまたはアディポネクチンの血漿濃度の増加は正常ではなく、代謝性・炎症性疾患と関連していることが多いということである。第二に、アディポネクチンを生成できる細胞が多岐にわたるため(主として間葉細胞であるが)、「疾患特異的細胞」と「疾患特異的アディポサイトカイン」の関連性をはっきりさせることが困難である。最後に、組織依存的、細胞依存的、血漿依存的なアディポネクチンの生成や発現が同じ機序で生じているとは考えられず、局所に依存した限局的なアディポネクチン生成が、関節炎の疾患経過で、あるいはさまざまな臓器や血漿内で、全く異なる局所的影響を引き起こしているのではないかという重要な問題を残している。

このデータは、新しい分子が他の領域の疾患に入り込んだ場合に、どれほど頭を悩ますようになるかを示している。しかし、このパズルにさらにピースをはめることができれば、研究者も臨床医もいずれ報われるであろう。

doi: 10.1038/nrrheum.2009.232

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