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骨免疫学:Wntアンタゴニスト:良い点と悪い点は?

Nature Reviews Rheumatology

2009年8月1日

Osteoimmunology Wnt antagonists for better or worse?

発生のシグナル伝達経路に関与する分子が、さまざまなリウマチ性疾患の治療標的として浮上している。 新たな研究により、これらのシグナル伝達過程を阻害することの意義が解明されてきている。

特異のサイトカイン、または免疫細胞を標的とすることで達成される慢性炎症のコントロールの改善は、関節リウマチ、強直性脊椎炎(AS)および乾癬性関節炎などの関節炎疾患を有する患者の転帰を改善させただけでなく、研究者たちの注意を骨破壊と修復に関与する過程に向けさせた。Wntやそのアンタゴニストの分子シグナル伝達経路は胚発生に重要な役割を果たしており、成人期における組織修復と再構成および疾患に関与すると考えられる。Uderhardtら1は最近、Wnt受容体アンタゴニストであるDickkopf-1(DKK1)の阻害が、腫瘍壊死因子(TNF)誘導関節炎モデルにおいて仙腸関節の融合をもたらすという結果を公表した。しかし、発生経路の操作は、細胞形質転換および癌を引き起こす可能性もある(Box 1)。Wntsとそれらのアンタゴニストの生物学的特性は、この難問の典型的な例である。Kansaraら2による研究は、内因的に分泌されたWnt経路のアンタゴニストであるWnt抑制因子1(WIF1)は、ヒト骨肉腫においてエピジェネティックにサイレンシングされており、Wif1 遺伝子の欠損は、マウスにおける放射線誘導骨肉腫の形成を促進することを示している。

脊柱または関節の強直をもたらす新しい軟骨と骨の形成は、ASおよび関連脊椎関節炎における長期転帰の主要な決定因子である。脊椎および関節における慢性炎症と強直との関連については、炎症の治療が成功してもX線上の病勢進行に影響がないようにみえるため、依然として議論が分かれている。関節強直の根底にある分子メカニズムも未だ不明である。Wntsや骨形成蛋白質(bone morphogenetic protein)といった発生中の軟骨および骨の形成に関与する経路は、これらの過程における主役とみなされている。われわれのグループは、骨形成蛋白質の抑制がマウスの末梢関節の強直を阻止できることを明らかにした。また、DKK1の抑制は、一部の関節炎マウスモデルにおいて末梢関節破壊から再構成の表現型に転換させた。しかし、現在まで、1件の学会抄録6を除き、脊椎および仙腸関節の強直をもたらす分子シグナルに関する公表データはない。脊椎および仙腸関節の強直は、末梢関節の問題以上に、AS を大きく特徴付けるものである。

上述の論文において、Uderhardtら1は、DKK1の遮断は、末梢関節炎だけでなく仙腸関節炎の転帰にも影響を及ぼすことを示している。ヒトTNFトランスジェニックマウスは、仙腸関節炎を発症し、重度のびらん性変化および被覆軟骨の喪失にいたる。これらのマウスにおいてTNFを遮断したところ、炎症は低減したが、関節強直は発生しなかった。対照的に、DKK1の遮断は、炎症に影響を及ぼさないが、炎症関節において軟骨および骨の形成を引き起こす。これは、仙腸関節強直の根底にある細胞および分子メカニズムを示した最初の報告である。しかし、これらの結果を臨床診療につなげる前に、数多くの取り組むべき点が残されている。

第1に、ヒトTNFトランスジェニックマウスモデルは、仙腸関節の骨架橋よりも疾患の機能的転帰に影響を及ぼす程度がはるかに大きい脊椎強直の研究には適していない。仙腸関節は、中軸骨格の一部であるという事実にもかかわらず、特に滑膜の存在下では、末梢関節と大きな構造的類似性を示す。TNFトランスジェニックマウスにおいて、破壊的滑膜炎は主要な特徴である。Uderhardtら1の論文に掲載された顕微鏡画像は、関節強直は関節軟骨の破壊後、そしておそらく、仙腸関節の線維軟骨の破壊後に発現することを示唆している。この骨形成の本質を評価することは困難であり、著者らが指摘するように、軟骨内骨形成、膜性骨形成および軟骨化生といった少なくとも3種の異なった生物学的プ ロセスが関与していると考えられる。

第2に、Kansaraら2の論文が示すように、Wnt阻害物質のサイレンシングによるWntの抑制解除は、特に若年者において、骨肉腫のようなまれな腫瘍の発生を促進、または増加させる可能性がある。リウマチ性疾患におけるWntシグナル伝達の役割に関して多くの報告が公表されており(概説がある7,8)、Wnt経路を標的にすることは、慢性関節炎のような疾患における組織反応に影響を及ぼす素晴しい選択肢と考えられる。このようなコンセプトにおける明らかな課題は、Wntシグナル伝達を適切に制御することであるだろう。

第3に、関節疾患において組織反応に影響を及ぼす薬物および治療戦略の開発は、炎症や組織破壊のコントロールを目標としたものとは異なっている可能性がある。目標および転帰パラメータを注意深く設定する必要がある。既知の経路を完全に遮断するよりも、アゴニスト-アンタゴニストのバランスを変えることの方が、修復を促進し、恒常性を回復させる可能性が高い方法のように思える。このようなバランス回復戦略の例は、骨粗鬆症に対する骨形成促進療法にみることができる。副甲状腺ホルモン(PTH)の投与は、骨吸収抑制療法の単独治療に失敗した患者に対して効果がある強力な骨形成促進療法である。PTH使用経験はいまだ限られたものであるが、その使用は一般に安全と考えられている。この好ましい安全性プロファイルは、PTHは通常、中高年または高齢患者に間欠的に投与されるため、継続的に暴露することはないという事実によるものである可能性がある。腫瘍形成に関して、Kansaraら2によって報告された結果は、骨肉腫の自然発症を強調しているが、WIF1欠失の効果は、放射線によって増強されることを理解しておくことは重要である。一方、他のWntアンタゴニストに対する別のノックアウトモデルでは、自発的腫瘍形成がもたらされることはないと報告されている。

最後に、Wntおよび関連するシグナル伝達経路は非常に複雑で、数多くの異なったリガンド、受容体と内因性アンタゴニスト、および別個の細胞内シグナル伝達経路の活性化が関与している。Wnt経路の多くの構成要素は、理論的には創薬における標的となる。組織に適した標的の選択は、毒性を限定するために考慮すべき重要な事項である。この経路を標的にすることは、免疫介在性炎症性疾患の特徴である自己免疫反応を引き起こすのとはまったく異なった細胞分画を抑制することを示している。Wntおよび関連のシグナル伝達経路を標的にすることは、前駆細胞や幹細胞などの別個の組織常在細胞集団に影響を及ぼす。われわれが以前に概説したように、これらの細胞集団の多くは組織の恒常性 に関与していると考えられ、それらの挙動は、病的環境下では異なる可能性がある。したがって、再生医学における分子標的は有望な分野であり、急速に進化しているが、基礎研究と臨床とのギャップを埋めるための新たな難題に直面している。

doi: 10.1038/nrrheum.2009.144

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