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ALS への重点的取り組み:改定診療指針

Nature Reviews Neurology

2010年4月1日

Motor neuron disease Focusing the mind on ALS updated practice parameters

米国神経学会(AAN)によって公表された最初の筋萎縮性側索硬化症(ALS)の診療指針は、同疾患患者のケアを向上させた。今回、このガイドラインは新たなエビデンスに基づいて改訂され、引き続き新たな研究や、より優れたケアのための推進力となっていくであろう。しかし、AAN および欧州のガイドラインのハーモナイゼーションが望ましい。

筋萎縮性側索硬化症(ALS)は運動ニューロン疾患として、また米国ではルー・ゲーリック病として知られている。運動ニューロンの進行性変性を特徴とする重篤な疾患で、随意運動の調節不能に至る。米国神 経学会(AAN)は1999 年、エビデンスに基づいたALS 管理の包括的ガイドラインを初めて公表した。そして、European ALS Consortium からもつい最近、欧州神経学会議との連携によるALS 管理の包括的ガイドラインが公表された。英国のMotor Neuron Disease Association(MNDA)による2 つの総説も、ALS 患者に多くみられる栄養および呼吸障害の管理に関してアドバイスを示しているが、これらガイドラインの結論や推奨を比較する場合、それぞれレビューの基準にかなり差があるという認識が重要である。さらに、時間を経たガイドラインは混乱を招いたり、悪影響をもたらす可能性もある。ガイドラインや 診療指針の作成に取り組むグループはすべて、それらを定期的に改定する責任を負わけなければならない。その点で、AAN のチームは、影響力が大きいこのガイドライン発表1 の10 年後、初の診療指針の改定版 (2 報の論文)を公表5,6 したことで高い評価を受けるべきである。

第一の論文では、疾患修復治療(リルゾールおよび炭酸リチウム)および栄養療法と呼吸療法に焦点が当てられている。リルゾールは、ALS の進行遅延を適応としてFDA の承認を受けた唯一の薬剤で、その効 果は中程度である。最初の診療指針が公表されて以降、新たなリルゾールの試験は行われていないが、大規模なデータベースを用いた多数の研究から、リルゾールは最初の指針が公表された時点の想定を上回り、 21 ヵ月まで生存期間を延長できる可能性が示されている。しかし、この平均余命の延長は、集団ベースの研究につきもののバイアスを反映している可能性がある。リルゾールは、多系統萎縮症または進行性核上性麻痺を有する患者の生存期間を延長させることはなく、また、グルタミン酸の放出を減少させるにもかかわらず、ハンチントン病の進行に影響を及ぼすこともなく、したがってALS における効果は一般的な神 経保護作用に起因するものではありえない。リルゾールの承認以降、有望な薬物治療の多くの試験が完了されているが、ALS における炭酸リチウムの使用について検討した唯一の試験が精査の対象に選ばれた。 予想通り、サンプルサイズが小さいことと試験の遂行過程の問題点のため、ALS の治療に炭酸リチウムを否定または推奨するかを判定するためのエビデンスは不十分であるというのが著者らの結論であった。

ALS 患者は概して食事が困難であるが、ALS 治療において経皮内視鏡的胃瘻造設術(PEG)またはX 線透視下胃瘻造設術(RIG)を使用した無作為化対照試験は発表されていない。胃瘻造設術が栄養状態の改善 に有益であることにはコンセンサスがほぼ得られており、新たな診療指針の推奨はこの見解を反映している。診療指針の著者らは、ALS 患者の治療においてPEGの使用を推奨する栄養管理アルゴリズムを提示している。注意すべきことに、たとえRIG が鎮静や内視鏡の使用を必要とせず、非侵襲性換気法(NIV)と併用できるとしても、このアルゴリズムは肺活量が50%未満のALS 患者に対するRIG の使用を提案していない。

NIV の導入は、過去10 年にわたって患者ケアに大きな影響を与えた。呼吸筋力の低下および呼吸不全の評価は、NIV を必要とする患者にとって不可欠である。新たなAAN ガイドラインは呼吸筋力低下の評価 を組み入れており、肺活量および夜間血中酸素濃度の測定に加え、sniff 鼻吸気圧と最大吸気圧などの評価を推奨している。同様に、新たなガイドラインでは、臨床診療で無視されることがかなり多かったファクターである呼吸筋機能および咳の喀出効率の評価の重要性を明確に示している。改定ガイドラインは、ALSにおけるNIV の無作為化対照試験9 だけを取り入れており、NIV はALS 患者のQOL を向上させることを指摘している。この試験と新たな診療指針に含まれなかったいくつかの説得力のある前向き試験に基づいて、大部分の神経内科医は、NIV によって生存率が大きく改善されると知ることとなった。しかし、NIVは欧州全体でいまだ患者の10 ~ 20%のみにしか適用されていない。

患者は一般的に、重篤な症状がなければ侵襲的な器具の使用を好まないが、もしNIV が早期に患者に実施されるなら、NIV に対するコンプライアンスが改善する可能性があるとの指摘がある。新たなガイドラ インでは、緩和ケアへの照会は、NIV が不成功であった患者のみに行うことを提案している。しかし、欧州の多くのALS センターではNIV および胃瘻造設術を検討する前提条件になっている。この差異は、医療 制度と財政的支援の違い、およびこの問題に関するエビデンスに基づいた研究がないことを反映している。

第二の論文は、集学的ケアと緩和ケア、症状のコントロール、および認知および運動障害をどのように定義し、管理するかという課題について検討している。現在、ALS 患者に対する集学的ケアの有効性に関す るいくつかのエビデンスが得られている。しかし、患者の経験に関する持続的かつ詳細で縦断的な定性的研究は、人為的に構築された「無作為化」対照試験より価値が高いことが判明するかもしれない。症状コントロールに関する新規または画期的な情報はほとんど提供されていない。例外として、デキストロメトルファンとキニジンの固定用量を併用した1 つの試験に基づいて導入された新しい治療法があり、難渋する情動不安定の管理に役立つと思われる。この製剤は、米国および欧州ではいまだ承認されていない。認知機能および行動変化の管理に関する推奨は、有益な可能性のある介入を支持するエビデンスがないため、不十分なものである。

結論として、改定診療指針は、ALS のさらなる研究が必要であることを示している。より有効な疾患修復薬物および否定的な結果が示された試験から情報を得る戦略が必要であり、また胃瘻造設術および NIV に関する診療におけるばらつきを理解する必要がある。胃瘻造設の最良の方法は何だろうか- RIGはPEG より優れているのだろうか。NIV 率にこれほどばらつきがあり、欧州では他所とくらべて低いのは なぜだろうか。NIV に適した患者を評価する最良の方法は何だろうか。われわれは、機械的咳補助装置が生存率およびQOL を改善するかどうか、また認知機能障害が意思決定、コンプライアンスおよび自律性に いかに影響を及ぼすかを理解することが重要と考えている。ALS 患者のQOL 増進を目的とするなら、集学的ケアを組織化する最も効果的な方法を明らかにすることも不可欠である。最後に、異なるいくつかのガ イドラインの方法論と推奨を調和させ、研究課題とその解決法について優先順位をつけるための超国家的な取り組みが刺激的なものとなろう(オンライン上のSupplementary Table 1 参照)。ALS 患者は、(経済的、社会的および文化的要素によって大きな影響を受けるが)住んでいる場所にかかわらず同様の困難に直面しており、すべてのALS 患者の利益を図るため、AANチームおよび欧州グループの価値ある仕事を進めるべき時がきている。

doi: 10.1038/nrneurol.2010.33

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