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パーキンソン病:カルシウムチャネル遮断薬とパーキンソン病

Nature Reviews Neurology

2010年9月24日

Parkinson disease Calcium channel blockers and Parkinson disease

過去40 年間、パーキンソン病の症状に対する治療は大きく進歩したが、その不可避な進行を遅らせる治療はなかなか開発されるに至らない。最近の新たな研究は、パーキンソン病の進行を安全で効果的に遅らせ、その臨床的発現を遅延させる方法が見出されるのではないかという希望を抱かせてくれる。

最近、パーキンソン病(PD)の治療におけるrasagilineの使用について報告されたが1、PD の進行を変える有効な方法は現在のところ明らかにされていない。PD に対する予防的治療がないことは、PD の根 底にある病因についてわれわれの理解が不十分なためであることは確かである。一部の例において遺伝的根拠が明確になり、また、原因となる突然変異がいくつか特定されているが、このような純粋な遺伝性パーキンソニズムはすべてのPD 症例のごくわずかでしかない。その一方で、非家族性PD における潜在的な病因物質として提唱されているものには、環境3 および内因性4 の有害物質に加えて、プリオン介在性プロセス5 や、おそらく何らかの感染イベントによって引き起こされる持続的な神経炎症プロセス6 などがある。Annals of Neurology に発表されたRitz らの研究では、カルシウムチャネルの機能的阻害はPD の進行をかなり遅らせ、これによりカルシウムチャネルの過剰または持続的な活性もPD 症状の発現に関与する可能性が示唆される、と報告している。

カルシウム恒常性の研究から、カルシウムシグナル伝達はドパミン作動性ニューロンの選択的変性(PDの際立った特徴)に関与している可能性が示唆されており8、Ritz らはこの仮説を支持する疫学的証拠を提 供している。さらに、彼らの研究結果は、PD における黒質線条体ニューロンの進行性喪失は、これらのドパミン作動性細胞のペースメーカーとしての役割を持つL 型カルシウムチャネルへの特有の依存性の結果 である可能性を示している。

黒質緻密部(SnC)内のドパミン作動性ニューロンは、脳内の大部分の他のニューロンとは異なった明確な生理学的表現型を有している。それらのニューロンは自律的活動性であり、シナプス入力がなくても持続 的な活動電位を生成している。このニューロンの活動は、Cav 1.3 サブユニットを含む電位依存性L 型カルシウムチャネルの活性化によって促進されうる。これにより、カルシウムチャネルは相対的に過分極した電位で開口することができる。しかし、このカルシウム介在性ペースメーカー能にはドパミン作動性ニューロンの代謝亢進が必要である。必要な細胞内カルシウム処理に要するエネルギー消費量の増大により、ドパミン作動性ニューロン内のミトコンドリアに特に高い負荷がかかり、活性酸素種および関連分子の生成増加をもたらす。これによりミトコンドリアの機能障害とドパミン作動性ニューロンの早期死が発生し、最終的にはPD の発現に至ると考えられる。しかし、SnCドパミン作動性ニューロンのペースメーカー活動は、ニューロンのカルシウムチャネルを薬理学的に遮断した状態でも持続することが可能である。したがって、L 型カルシウムチャネルの機能的阻害は、PD 症状の発現および進行を遅らせ、さらには予防する手段となるかもしれない。

多くの薬物がL 型カルシウムチャネルの活性を阻害し、高血圧や他の心疾患の治療に長年にわたり用いられてきたが、これらさまざまなカルシウムチャネル遮断薬の薬理学的特性は大きく異なっている。SnC 内のドパミン作動性ニューロンに作用を及ぼすためには、カルシウムチャネル遮断薬は血液脳関門を通過し、Cav1.3 カルシウムチャネル活性を阻害しなければならない。この点について、ジヒドロピリジン系薬 はその他のカルシウムチャネル遮断薬より抜きんでている。アムロジピンなどの例外は別として、ジヒドロピリジン系薬は、その他のカルシウムチャネル遮断薬に比べ、概してCNS 通過性は良好で、Cav1.3 を含むカルシウムチャネルに対して比較的高い親和性を有している。

ジヒドロピリジン系カルシウムチャネル遮断薬のこのような薬理学的特性は、Ritz らの研究において示されている。PD 患者1,931 例と対照被験者9,651 例を対象とした大規模な集団ベースの症例対照研究において中枢作用性カルシウムチャネル遮断薬の使用を調査したところ、L 型カルシウムチャネル遮断薬がPD リスクを減少させることが示された。著者らは、DanishHospital Register およびDanish national prescription database の調査後、これらタイプの薬物を摂取した患者ではPD リスクが26 ~ 30%減少したことを報告した。ジヒドロピリジン系カルシウムチャネル遮断薬 として頻繁に処方されるアムロジピンは、効果的に血液脳関門を通過しないため、PD リスクの減少はもたらさなかった。さらに、ベラパミルやジルチアゼムといった非ジヒドロピリジン系のカルシウムチャネル遮断薬は、Cav1.3 を含むL 型カルシウムチャネルを効率的に遮断しないため、やはりPD リスクの減少をもたらさなかった。

Ritz らの研究には、平均追跡期間が比較的短いことや、PD 診断の確認に直接的な神経学的検査ではなく医療記録を用いていることなど、いくつかのマイナス面がある。カルシウムチャネル遮断薬の使用とPD リスクについて検討した初期の疫学研究でも、相反する結果が得られていることに注目すべきである。それでもなお、Ritz らの報告は、L 型カルシウムチャネル遮断薬の使用とPD リスクとの関連を検討した今までの疫学研究の中で最も説得力があるように思える。これら最新の研究成果は、PD 患者におけるこれら薬物の有望な疾患修復的役割を評価する次段階への準備となる。実際、PD 患者におけるジヒドロピリジン系カルシウムチャネル遮断薬isradipine の安全性と忍容性を評価するための臨床試験(STEADY-PD)が現在進行中である。

PD における疾患修復治療への道のりには、多数の対象薬物が初期の評価では有望と思われたが、残念ながら臨床試験で最終的に不成功に終わったという歴史がある。Isradipine などの中枢作用性ジヒドロピリジン系L 型カルシウムチャネル遮断薬にも同じ運命が待っているかどうかは今後の結果待ちである。投与量、忍容性、および長期治療の効果といった論点についての答えがまずは求められるであろう。さらに、PD の病態は、SnC ドパミン作動性ニューロンの単なる喪失をはるかに超えるものであり、脳の他の領域に由来するPD の臨床的非運動症状には、カルシウムチャネル遮断薬はほとんど効果を示さない。また、PD の運動症状が臨床的に明らかになった時点では、残存するドパミン作動性ニューロンを救済するには遅すぎると考えられる。

それでもなお、Ritz らによる疫学研究の結果は、カルシウム伝達がドパミン作動性ニューロンの選択的変性に関与していることを示した以前の研究と合わせることで、これを機会にさらなる研究によって、PD の進行を遅らせ、さらには阻止するための有効な手段がもたらされるという希望を与えるものである。

doi: 10.1038/nrneurol.2010.31

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