Research Highlights

炎症はAD の認知機能低下を促進する

Nature Reviews Neurology

2009年11月1日

Alzheimer disease Inflammation speeds up cognitive decline in AD

急性の全身性炎症の責任疾患となる感染症を有する軽度~重度のアルツハイマー病(AD)患者では、腫瘍壊死因子(TNF)レベルが顕著に上昇している。 また、全身性炎症のない患者に比べて、認知機能の低下率は2 倍に及ぶ、とAD 患者300 例を追跡調査した研究者らは結論づけている。筆頭著者のClive Holmes は「全身性炎症は、AD 患者における長期的 な認知機能低下の進行に関連している。この原因は、TNF のような特異的な炎症性メディエーターであると考えられる」と述べている。

血液検査と認知機能評価を2、4、6 ヵ月毎に実施し、急性炎症の徴候を示している患者を特定するために患者と介護者両者に質問した。その結果、既に慢性炎症がみられ、ベースラインのTNF レベルが高かっ た患者の認知機能低下率は、慢性炎症や急性炎症のないAD 患者の10 倍であった。実際、試験期間を通じて血清TNF レベルが低かった患者では、同期間中に認知機能低下はほとんどみられなかった。

「これまでも急性感染により、せん妄が生じることで認知機能低下が短期的に悪化する可能性があることは知られていた。今回の研究は、せん妄がない場合でも、急性感染により長期的な認知機能低下が生じうる こと、また慢性炎症が既に存在するというエビデンスがある場合には、こうした影響が特に顕著であることを示している」とHolmes は説明している。

TNF は、マクロファージが産生する炎症誘発性サイトカインであり、中枢神経系の自然免疫応答を活性化する。脳内でのTNF の役割については相反するエビデンスがあり、これまでの研究では有益な効果と悪 影響がいずれも示されているが、AD におけるTNFの役割は主として悪影響の側面が強いようである。動物モデルでの研究では、特に慢性炎症が既に存在する場合、TNF によって神経変性を促す細胞傷害性の炎 症性メディエーターの産生が刺激されることが実証されている。TNF を阻害すると、このような影響を低減できる可能性があり、Holmes は「当然、全身性炎症を抑制できるような手段により、AD における認知 機能低下の進行を遅らせることが可能かどうかも調査したい」とコメントしている。

doi: 10.1038/nrneurol.2009.168

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