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ビタミンD と日光が健康に及ぼす有益な影響:D-bate

Nature Reviews Endocrinology

2011年9月24日

Vitamin D deficiency in 2010 Health benefits of vitamin D and sunlight a D-bate

ビタミンD 欠乏症は自己免疫疾患、心血管疾患、感染症、2 型糖尿病の発症リスクを増大させるとともに、 転倒および骨折リスクも高める。2010 年に、小児ならびに成人において上気道感染症および心血管疾患リスクを低減させるにはビタミンD 状態の改善が重要となることを示す前向き無作為化対照比較試験が いくつか発表された。

ビタミンD 欠乏症は世界的に最もよくみられる病態の1 つで、同リスクを有する小児および成人の数は10 億人以上に及ぶ1。ビタミンD 欠乏症にはさまざまな要因が知られているが、その中で最も大きな原因が食事からの適切なビタミンD 摂取と適度な日光曝露の不足である(図1)。この10 年間に日光曝露、さらには紫外線曝露や食事、サプリメントによる適切なビタミンD 状態の維持が健康に有益な影響を及ぼすことに関する文献が数千件も発表された。低緯度地域に生まれる、 もしくは居住することにより、1 型糖尿病、多発性硬化症、高血圧、致死的癌の発症リスクは低下する。 これらの知見は、ビタミンD 状態の指標である血中25- ヒドロキシビタミンD 値の低下が、2 型糖尿病や感染性疾患、癌、多発性硬化症、神経認知機能障害といった幅広い病態の発現リスク上昇と関連することを示した複数の後ろ向き研究によって裏づけられている。(図1) 。とはいえこれらの報告の多くは関連性研究であり、 小児でも成人でもビタミンD 状態が向上することによって種々の健康上の問題が低減するかどうかについては不明である。2010 年に、ビタミンD 状態の向上が小児および成人の健康に直接的に有益な影響を及ぼすかどうかを検討する前向き研究がいくつか実施された。

Urashima ら2 は6 ~ 15 歳の小児を対象に多施設共同無作為化プラセボ対照並行群間二重盲検比較試験を実施し、ビタミンD サプリメントが季節性A 型インフルエンザの発症に及ぼす影響について調査した。1日1,200 IU のビタミンD サプリメントを4 ヵ月間投与した167 人のうちA 型インフルエンザ感染が確認されたのは18 人(10.8%)であったのに対し、プラセボを投与した167 人では31 人(18.6%)であった(相対リスクの低下42%)。さらに、過去に喘息の診断を受けていた小児では、プラセボ群に比べてビタミンD サプリメント投与群で喘息発作の相対リスクが93% 低下した。この知見は、軽度~中等度の持続性喘息歴を有するビタミンD 不足(< 75 nmol/L)の小児1,024 例を対象とした研究によって裏づけられている。本患者群では、入院または救急来院のオッズ比が25- ヒドロ キシビタミンD 値が正常範囲の小児に比べて高かった(オッズ比1.5)3。また、健常成人198 人を対象に25- ヒドロキシビタミンD 値を継続測定した前向きコホート研究では、25- ヒドロキシビタミンD 値≧ 95 nmol/ L の成人で急性ウイルス性上気道感染症リスクが2 倍低減し、かつ病気日数の割合も著しく減少することが確認された。

ビタミンD 欠乏症は心筋梗塞の発症リスクを50%、 さらには死亡リスクを100% 増大させることが示唆されている。米国では、ビタミンD 不足もしくは同欠乏症を呈するティーンエイジャーは5,000 万人にのぼると推定されており、こうした男女では血圧上昇リスクが2.4 倍、血糖値上昇リスクが2.5 倍、メタボリック症候群リスクが4.0 倍増加すると考えられている。Dong らは正常血圧の黒人ティーンエイジャー49 人(16.3 ± 1.4 歳)を対象に16 週間の無作為化盲検比較試験を実施し、ビタミンD 摂取量を1 日400 IU から2,000 IU へと増加させた場合の動脈壁硬化に対する効果について検討した。動脈壁硬化は、頸動脈– 橈骨動脈の脈波伝播速度によって判定した。その結果、体脂肪量は25- ヒドロキシビタミンD 値と有意な負の相関を示し、ビタミンD 2,000 IU/ 日投与群では高血圧およびアテローム硬化性沈着の前兆である動脈壁硬化が 有意に低減した6。この知見は、ビタミンD 欠乏症の肥満症、糖尿病、高血圧患者76 例から単離したマクロファージを材料に検討を行ったin vitro 研究によって裏づけられている。すなわち、1,25- ジヒドロキシビタミンD を添加した培地ではLDL コレステロールが修飾され、アセチル化もしくは酸化LDL コレステロールの取り込みが減少することにより泡沫細胞形成が抑制されることが明らかになった。

ほとんどの人間にとってビタミンD は、主に持続的な日光曝露によって供給される。この地球上のどこに居住しているかにかかわらず、血中25- ヒドロキシビタミンD 値は夏の終わりに最も高くなり、冬の終わりに最低となる。適度な日光曝露と健康との関連は、ほとんどの文明で数千年にわたり認識されてきた。ところがこの40 年間に、少量の日光曝露であっても健康に害を与えることから、十分な日焼け止めをせずに日光を受けるのは避けるべきあるとの見解が示唆され、疑問視されないまま見過ごされてきた。

ビタミンD は50 億年以上にわたり日光に曝露されてきた有機体によって作り出されたものである。体内のほとんどの組織と細胞はビタミンD 受容体を有しており、1,25- ヒドロキシビタミンD は200 ~ 2,000 個の遺伝子を直接または間接的にコントロールしている可能性が推測されている。こうした遺伝子の中には、 細胞増殖を調節して悪性化を阻止する、マクロファージの細胞傷害活性を増強する、自己免疫疾患リスクの低減において重要なヘルパーT 細胞のTh1/Th2 バランスを変化させることにより免疫系を調節する、インスリン産生を増強してインスリン感受性や心筋細胞収縮性、骨格筋機能を向上させる、骨の健康を最大限に高めるといった遺伝子が含まれる。進化の過程を通じて、ビタミンD は脊椎動物の骨格の進化、さらには健康全般においても重要な物質であったが、食物からのビタミンD 摂取は必須ではなかったと考えられている。この説は、食物由来のビタミンD 天然源が少ないことの説明にもなろう。最近の研究から、積極的な日光曝露の習慣は2 型糖尿病の発症リスクを30% 低下させることが示唆されており8、この知見はビタミンD とカルシウム摂取量を増加させると2 型糖尿病の相対リスクが33% 低減することを示した以前の研究結果とも一致する。

ビタミンD が健康に及ぼす有益な影響に関するあらゆる知見を考え合わせると、WHO および種々の医療保険機関や医療提供者によって推奨されている小児および成人のビタミンD 状態については再検討することが求められよう。米国Institute of Medicine(IOM) は最近、小児および成人におけるビタミンD 摂取量を200 IU/ 日から600 IU/ 日へと3 倍に増加させる必要があるとの認識を示した。さらに、ビタミンD はかつて考えられていたように有毒ではなく、摂取上限を2倍の4,000 IU/ 日に引き上げることも提唱した。こうした勧告は歓迎されるべきものだが、本稿でも言及したように、ビタミンD の健康に及ぼす有益な影響を最大限活かす必要性を多くの専門家が信じるまでには至っていない。

ビタミンD 状態は、食品にビタミンD を添加して栄養強化を図る、ビタミンD サプリメントを摂取する、 直射日光に対する曝露自制を防止するといった対策によって容易に改善できる。そのためビタミンD サプリメントだけでなく、脂肪分の多い魚や紫外線に曝露されたキノコなどビタミンD を天然に含む食物やビタミンD 強化食品を摂取し、適度な日光曝露を受けることによって血中25- ヒドロキシビタミンD 値> 75 nmol/L を達成・保持することを目標とすべきであろう。ビタミンD を100 IU 摂取するごとに血中25- ヒドロキシビタミンD 値は約1.5 ~ 2.5 nmol/L 増加することから、小児では少なくとも600 IU/ 日(IOM の勧告)、できれば1,000 IU/ 日、さらにティーンエイジャーと成人では2,000 IU/ 日以上摂取することが望まれる。この簡便かつ費用効果の高いアプローチ法を用い、世界規模でビタミンD 状態を改善させれば、実質的に疾病負担が減り、将来的には医療費を全体の25% 減少させることが可能となろう。

doi: 10.1038/nrendo.2010.234

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