物理学:塩分を含んだ氷を用いた発電
Nature Materials
2025年9月16日
Physics: Generating electricity using salty ice
塩分を含む氷は、通常の氷に比べて1,000倍の電荷を生成するかもしれないことを報告する論文が、Nature Materials に掲載される。さらなる研究では、この現象が塩と氷が混在する低温環境における持続可能なエネルギー生成をもたらす仕組みを解明できるかもしれない。これは、氷の地質学、例えば氷河や木星の衛星エウロパ(Europa)、土星の衛星エンケラドス(Enceladus)など、太陽系外縁の衛星への応用が期待される。
地球表面の10%は氷に覆われており、氷は曲げられることで電気を発生させることができるが、その潜在的な力は未だ十分に活用されていない。この「フレキソエレクトリック効果(flexoelectric effect)」と呼ばれる現象は材料に依存し、純水氷では小型電気機器を駆動するのに十分な電流(純氷からの電流は約1~10ナノクーロン/メートル)を生成できなかった。
Xin Wenら(西安交通大学〔中国〕)は、塩と水を様々な濃度を一緒に凍結させることで、塩分を含む氷が塩分濃度に応じてフレキソエレクトリック係数を増大させることを実証した。具体的には、重量比25%の塩分を含む氷では1~10マイクロクーロン/メートルの係数が観測され、これは純水氷の1,000倍、純塩の100万倍に相当する。著者らは、このフレキソエレクトリック効果の増強は、氷結晶が完全に融解する前にその縁部に塩分が形成されるためだと仮説を立てた。氷が曲げられると、圧縮側から伸張面へ塩水が流れ、電荷を生成する。
著者らは、このエネルギー生成が電子機器を駆動する方法を特定するにはさらなる研究が必要だと指摘している。しかし、これらの知見は、寒冷地において環境的に持続可能で安価なエネルギー収穫および検知デバイスが実装可能であることを示唆している。同様に、この結果は、氷河や太陽系外縁部の衛星など、塩イオンと氷が混在する自然システムにも影響を与えるかもしれない。
- Letter
- Published: 15 September 2025
Wen, X., Ma, Q., Liu, J. et al. Streaming flexoelectricity in saline ice. Nat. Mater. (2025). https://doi.org/10.1038/s41563-025-02332-5
doi: 10.1038/s41563-025-02332-5
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