Nature ハイライト

生態:農業の始まり

Nature 469, 7330

人類の繁栄の一因は農業を行うことにあるが、農業を行っているのは人類だけではない。菌類を栽培するアリやキクイムシなど一部の社会性昆虫は、きわめて高度な栽培法や収穫法を発逹させている。海生腹足類もそれよりつつましい形の菌類栽培を行っているが、意外なことに、土壌に棲む社会性アメーバの一種のDictyostelium discoideumも原始的な形の農業を行っていることが、今回明らかになった。この種のアメーバは「粘菌」としてよく知られている。野生環境から分離されたD. discoideumのクローンの約3分の1は、自分がいる場所で得られる細菌をすべて消費してしまわずに、一部を自らの子実体に取り込む。この「収穫物」は、散布される胞子によって運ばれ、次世代の生息場所で新たな細菌作物の「種まき」に使われる。農業によって得られる多世代にわたる利益を享受するのは、すでに確立された血縁集団であることから、ヒトや昆虫、および今回の共生微生物に見られる農業と社会性との結びつきは、単なる偶然の一致ではないと考えられる。

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