Nature ハイライト

Cover Story:制御されたカオス:擾乱のエコーが複雑な量子系の診断を可能にする

Nature 646, 8086

相互作用する多くの量子的な要素(複雑な分子などに見られるもの)の力学を探って、それを解き明かすことは極めて困難である。そうした強く相互作用する系では、情報はあまりに急速にスクランブルされるため、いかなる単一要素の寄与も単離がほぼ不可能になる。これを克服しようとする1つの方法は、1匹のチョウの羽ばたきが竜巻を引き起こし得るという、カオス理論から着想を得たものである。この発想と同様に、量子系に小さな擾乱を導入すると、望ましくない信号を除去した後、局所的な測定で時間とともに広がる擾乱の伝播を追跡することができる。この手法は、個々の要素間の相互作用に関する、系全体にわたる豊富な情報を提供できるが、同時に極めて脆弱で、測定が困難でもある。今週号ではH Nevenたちが、超伝導量子プロセッサーにおいて、そうした擾乱を測定したことを報告している。研究者たちは、エコー法を用いて、量子擾乱を2回伝播・再集束させることで干渉パターンを作り出し、これによって、望ましくない信号を抑制して系内の特定の相互作用に関する情報が抽出できるようになった。この結果は、こうした干渉計測法の核心にあるエコー現象が、複雑な分子系などにおける複雑な量子ダイナミクスを解き明かすための強力な診断ツールになり得ることを示唆している。

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