Nature ハイライト
Cover Story:奇妙な花:ゲノム解析がイヌバラの生殖の謎を解明
Nature 643, 8070
表紙はイヌバラ(Rosa canina)の花のクローズアップ写真である。イヌバラ類(バラ属カニーナ節〔Rosa sect. Caninae〕)の生殖には奇妙な点がある。真核生物の有性生殖の一般的な規則を無視し、染色体コピー数を奇数に保っているのだ。例えば、ヒトでは細胞分裂の際にそれぞれの親から1本ずつの染色体を受け継いで、子孫は23本の染色体の2コピーずつを持つ。これに対して、イヌバラ類は7本の染色体のそれぞれを5コピーずつ保持している。これは、細胞分裂過程も同様に不均等で、1コピーが雄性配偶子に、4コピーが雌性配偶子に由来するためである。しかし、こうした生殖様式の機構と進化的起源はいまだ解明されていない。今週号ではA Marquesたちが、イヌバラの35本の染色体の塩基配列を解読し、そのゲノムが実際には4つの祖先的「サブゲノム」によって構成されていることを明らかにしている。こうしたサブゲノムの1つは、両方の親から1コピーずつ受け継がれるが、残りの3コピーは雌親からのみ受け継がれる。研究チームはまた、雌親からのみ受け継がれた染色体のセントロメアは、両親から受け継がれた染色体のものと構造的特徴が異なることを発見した。これは、イヌバラ類の生殖系列における細胞分裂過程での不均等な伝達を支える構造的基盤が存在することを示唆している。
2025年7月3日号の Nature ハイライト
惑星科学:火星における炭酸塩の形成と生命居住可能性
量子物理学:ボーム力学では説明できない光子ガスの挙動
サーマルフォトニクス:機械学習による高性能ナノフォトニックエミッターの設計
ロボットラーニング:ソフトロボットの動きを動画で学習する人工知能
ペロブスカイトLED:空間的に弱く閉じ込められた高性能ペロブスカイト
電池:全固体電池向けのオールインワンハロゲン化物材料
材料科学:高い強度と延性を兼ね備えた鉄系合金の機械学習による設計
分子磁石:配位子によるランタノイド錯体の磁気特性向上
化学:アルケン鎖を炭素1つ分だけ伸ばす
集団遺伝学:フェニキア文化の担い手の祖先をたどる
神経科学:抑制性ニューロンによる抑制性ニューロンの調節
老化:リトコール酸による抗老化作用
免疫学:グリオブラストーマの腫瘍微小環境が免疫抑制性になる理由
がん:早期発症大腸がんの地理的・年齢的差異の要因
細胞生物学:実験的架橋とコンピューター解析でエンドソームの構造インタラクトームを解明
発生:母体の鉄不足はマウス胎仔の性決定に影響する
構造生物学:ポックスウイルスのプロテアーゼの構造をベースとして強力な阻害剤を設計
構造生物学:多様なGPCRキナーゼによるリン酸化が指示するアレスチン集合