神経科学:ヒト脳疾患の単一核トランスクリプトーム規模での関連解析
Nature 657, 8133 doi: 10.1038/s41586-026-10836-6
一般的な脳疾患は大きな健康負荷を強いるが、その遺伝的リスクが脳内のどこで作用するかを特定することは依然として困難である。ゲノム規模関連解析によって、神経精神疾患や神経変性疾患に関連する多数の座位が見つかっているが、その多くは、特定の細胞タイプにおける遺伝子発現に影響を及ぼす非コード領域内に存在している。従来の脳のバルクトランスクリプトーム解析は、ヨーロッパ系祖先を持つコホートを対象とすることが多く、細胞の多様性を平均化するため、遺伝的リスクに関連した遺伝子発現の変化が不明瞭になってしまう。本研究で我々は、複数の祖先集団からなるPsychADコホートにおける背外側前頭前皮質の単一核遺伝子発現プロファイルを用い、主要な脳細胞タイプ全体について、遺伝的に調節された発現を推定するトランスクリプトームのインピュテーションモデルを構築した。これらのモデルを神経精神疾患と神経変性疾患に適用したところ、バルクの組織解析では検出されない数千の遺伝子–形質関連が明らかになり、多くのシグナルを、個別のニューロン集団、グリア細胞集団、免疫細胞集団に帰属できた。退役軍人100万人プログラム(Million Veteran Program)における祖先集団横断的な解析により、これらの関連が確認され、細胞タイプ特異的な予測遺伝子発現が複数の形質に及ぼす影響が明らかになるとともに、形質に関連する調節異常が祖先集団間で保存されていることが実証され、これにより原因となる遺伝子と経路のマッピングが可能になった。まとめるとこれらの知見は、ヒト前頭前皮質の遺伝的に調節された発現について、細胞タイプごとに区別され、祖先集団を考慮したアトラスを提供する。また、単一核トランスクリプトミクスが、複雑な脳疾患に対する遺伝子発見と治療標的の優先順位付けをどのように精緻化できるかを示している。

