生化学:阻害剤は天然のタンパク質分解回路を介してキナーゼの代謝回転を過剰亢進する
Nature 649, 8098 doi: 10.1038/s41586-025-09763-9
標的を定めたタンパク質分解は、タンパク質分解誘導キメラ分子(PROTAC)や分子接着剤のような小分子を用いる薬理学的戦略であり、標的タンパク質とE3ユビキチンリガーゼを近づけて、標的のユビキチン化を促し、プロテアソームによる分解を促進する。また、標的を阻害するように設計されたリガンドが、標的の不安定化を引き起こすことも散発的に報告されていて、中でもキナーゼ阻害剤については不安定化現象が繰り返し観察されている。しかし、このような現象の頻度や一般化可能性、また基盤となる機構についてはまだ解明がなされていない。今回我々は、この解明不足の問題に取り組むために、1570種のキナーゼ阻害剤によって細胞を摂動した後で、98種のキナーゼについて存在量の動的プロファイルを調べ、阻害剤が誘発するキナーゼ不安定化の選択的実例を160例明らかにした。分解されやすいキナーゼはアノテーションでHSP90のクライアントとされていることが多く、不安定化の重要な要因の1つがシャペロンの欠乏であることがはっきりした。しかし、阻害剤が誘発するLYN、BLK、RIPK2の分解を詳細に調べたところ、違いはあるが原理的に共通した機構論理の存在が判明した。この機構では、阻害剤がキナーゼに作用することで、内在性の分解機構によってもっと効率良く除去されるような状態を引き起こす。機構的には、細胞の活性、局在性、あるいは高次の会合にリガンドが変化を引き起こすことによって、このような効果が現れ得る。この変化は、標的との直接の結合やネットワーク効果が引き金となって起こるらしい。まとめると我々のデータは、阻害剤が誘発するキナーゼ分解はありふれた事象であり、古典的な近接効果で誘発される分解機構の代わりとして内在性の分解回路を過剰に亢進させることを示唆している。

