古生態学:牙のテストステロン記録から明らかになったケナガマンモスのマストの周期的発現
Nature 617, 7961 doi: 10.1038/s41586-023-06020-9
生体媒質に含まれるホルモンからは、発達、生殖、疾病、ストレスに関連する内分泌活動がさまざまな時間スケールで明らかになる。血清からはその時に循環している濃度が得られるのに対し、各種の組織には経時的に蓄積したステロイドホルモンが記録されている。ホルモンはこれまで、現代および古代の両方の状況において、ケラチン、骨、歯で調べられてきたが、そうした記録の生物学的な重要性に関しては議論が続いており、歯に関連するホルモンの有用性はまだ実証されていない。今回我々は、液体クロマトグラフィータンデム質量分析(LC–MS/MS)法を微細スケールの連続試料採取と組み合わせて用い、現代の牙および牙の化石の象牙質に含まれるステロイドホルモンの濃度を測定した。アフリカゾウ(Loxodonta africana)の雄の成体の牙には、毎年繰り返される、交尾の成功率を高める行動的・生理的変化期間である「マスト(雄の発情期)」の発現を示す、テストステロンの周期的な増加が認められた。ケナガマンモス(Mammuthus primigenius)の雄の牙で行った同様の評価からは、マンモスもマストを経験していたことが明らかになった。これらの結果は、象牙質に保存されているステロイドを用いて現生哺乳類および絶滅哺乳類の発達、生殖、ストレスを調べる広範な研究の土台を整えるものである。象牙質は、付加成長し、分解に強く、多くは成長線を含むことから、歯は、内分泌データの記録として用いられている他の組織よりも優れている。正確な分析に必要となる象牙質粉末の量が少ないため、象牙質ホルモンの研究はより小型の動物にも広がると期待される。従って、歯のホルモン記録は、動物学および古生物学での幅広い応用にとどまらず、医学や法医学、獣医学、考古学の研究にも役立つ可能性がある。

