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医学研究:SARS-CoV-2のタンパク質相互作用マップから明らかになった既存薬転用の標的

Nature 583, 7816 doi: 10.1038/s41586-020-2286-9

重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)と命名された新規なコロナウイルスは、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の原因ウイルスで、感染者数は230万人を超え、死者は16万人以上となり、世界中の社会、経済に混乱をもたらしている。COVID-19の治療に有効であることが臨床的に証明された抗ウイルス薬はなく、SARS-CoV-2感染を防ぐワクチンも存在しない。SARS-CoV-2が細胞に感染する仕組みについての分子レベルでの詳細な情報が限られていることが、治療薬やワクチンの開発を妨げている。今回我々は、SARS-CoV-2が持つ29のタンパク質のうち26をクローン化し、標識付けしてヒト細胞で発現させ、アフィニティー精製質量分析法を用いて個々のSARS-CoV-2タンパク質と物理的に結合するヒトタンパク質を特定し、SARS-CoV-2タンパク質とヒトタンパク質の間に生じた信頼度の高い332のタンパク質–タンパク質相互作用を明らかにした。さらにそれらの中から、69種の化合物(うち29種は米食品医薬品局が承認している薬剤、12種は臨床試験中、28種は前臨床段階の化合物)の標的となるドラッガブルなヒトタンパク質もしくは宿主因子66種を特定した。その一部について、複数のウイルスアッセイによるスクリーニングを行い、抗ウイルス活性を示し薬理活性のある化合物セット2つを見つけ出した。1つはmRNA翻訳の阻害剤であり、もう1つはシグマ1、シグマ2受容体の調節因子と推定される。宿主の因子を標的とするこれらの物質について、ウイルスの酵素を直接の標的とする薬との併用も含め、さらなる研究が行われれば、COVID-19の治療法につながる可能性がある。

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