分子生物学:トランスポゾンにコードされたCRISPR–Cas系によるDNAターゲッティングの構造基盤
Nature 577, 7789 doi: 10.1038/s41586-019-1849-0
細菌は、病原体や可動遺伝因子による攻撃を受けると、CRISPRおよびCas遺伝子がコードする適応免疫系を使ってゲノムの完全性を維持する。タイプIのCRISPR–Cas系は通常、リボ核タンパク質複合体Cascadeとヘリカーゼ–ヌクレアーゼであるCas3の共同作業によって外来DNAを標的として分解するが、Cas3を持たないヌクレアーゼ欠失型タイプI系は、細菌のTn7様トランスポゾンによって別の用途、すなわちRNAをガイドとする転移に転用されている。DNAのターゲッティングと挿入の際に、CRISPR装置とトランスポゾンに関わる装置がどのように協働するのかは、まだ解明されていない。今回我々は、コレラ菌(Vibrio cholerae)のトランスポゾンであるTn6677にコードされるTniQ–Cascade複合体の構造をクライオ(極低温)電子顕微鏡を用いて解き、この機能的協働の機構的基盤を明らかにした。得られたクライオ電子顕微鏡マップによって、転移タンパク質TniQのde novoモデル作成と精密化が可能になった。TniQは、頭と尾が結合した形の二量体としてCascade 複合体と結合し、CRISPR RNA(crRNA)の3′末端近くにCas6とCas7によって形成された界面に存在する。元から融合しているCas8–Cas5融合タンパク質は5′crRNAの柄の部分に結合していて、可動性のある挿入ドメインを介してTniQ二量体に接している。標的DNAに結合した構造から、PAM(protospacer-adjacent motif)の認識とRループ形成に必要不可欠な重要な相互作用が複数明らかになった。この研究により、TniQ–CascadeによるDNAのターゲッティングが下流でさらなるトランスポザーゼタンパク質の動員を引き起こす仕組みを構造面から理解するための基盤が得られた。今回の知見は、このCRISPR系をゲノム工学でのプログラム可能なDNA挿入に利用するためのタンパク質工学的研究の指針となるだろう。

