構造生物学:熱帯熱マラリア原虫の輸送体PfCRTの構造と薬剤抵抗性
Nature 576, 7786 doi: 10.1038/s41586-019-1795-x
薬剤抵抗性熱帯熱マラリア原虫(Plasmodium falciparum)の出現と蔓延は、マラリアを抑制し根絶しようという世界的な努力を妨げている。マラリア治療が数十年にわたって頼ってきたのは、クロロキン(CQ)という安全で価格的にも手頃な4-アミノキノリンで、これは赤血球内で無性生殖する血液段階の原虫に対する有効性が極めて高かったが、東南アジアと南米で抵抗性が出現し、世界中に広がった。化学構造が似ていて現在のところ第一選択の併用治療薬となっているピペラキン(PPQ)に対しても、今や地域によって臨床抵抗性が出現しており、その有効性が低下しつつある。CQとPPQに対する抵抗性は、熱帯熱マラリア原虫のCQ抵抗性輸送体PfCRTに生じた、それぞれ別の点突然変異群に関係付けられている。PfCRTはこのマラリア原虫の酸性食胞の膜を貫通する薬剤/代謝物輸送体のスーパーファミリーに属する49 kDaの輸送体である。今回我々は、CQ抵抗性でPPQ感受性の南米産熱帯熱マラリア原虫系統7G8のPfCRTアイソフォームについて、分解能3.2 Åでの構造を単一粒子クライオ(極低温)電子顕微鏡と抗原結合性フラグメント法を用いて明らかにした。CQ抵抗性およびPPQ抵抗性に関わる変異はそれぞれ、中央にある負に帯電した空洞の内壁を覆う別々のヘリックス上の中程度に保存された部位に主に局在しており、この空洞が正電荷を持つCQやPPQとの相互作用の主要部位であることを示している。結合と輸送の研究から、7G8アイソフォームはCQとPPQの両方に対してほぼ同じ程度の親和性で結合し、2つの薬剤は相互に競合することが明らかになった。7G8アイソフォームはCQを膜電位とpHに依存して輸送し、これは能動排出機構がCQ抵抗性を促進することと一致する。しかし7G8アイソフォームはPPQは輸送しない。PPQ感受性の低下に関連するPfCRT変異として、アジアではF145Iが、南米ではC350Rが新たに出現しており、その機能研究から、これらの変異が7G8バリアントタンパク質でのPPQ輸送能力に関わっていること、また遺伝子編集した原虫に抵抗性をもたらすことが明らかになった。構造解析、機能解析とin silico解析によって、PfCRTバリアントでは、CQ抵抗性とPPQ抵抗性に関わる機構の特徴が異なっていることが示唆された。これらのデータは、抗マラリア治療の失敗をもたらすこの重要なメディエーターの分子機構について、原子レベルでの手掛かりをもたらすものである。

