発生生物学:オルガノイドの単一細胞ゲノムアトラスから明らかになったヒト特異的な脳発生の特性
Nature 574, 7778 doi: 10.1038/s41586-019-1654-9
ヒトの脳は、ヒトがチンパンジーや他の大型類人猿から分岐して以来、かなりの変化を受けてきた。しかし、この分岐の根底にある遺伝的プログラムや発生プログラムについては、完全には分かっていない。今回我々は、単一細胞トランスクリプトミクスとクロマチン接近可能性プロファイリングを用いて、幹細胞から作製した脳オルガノイドを解析し、ヒトに特異的な遺伝子調節の変化を調べた。我々はまず細胞構成を解析し、ヒト脳オルガノイド発生の全過程(多能性段階から神経外胚葉段階と神経上皮段階を経て、その後、前脳の背側と腹側、中脳、後脳の領域内のニューロン運命へと分岐する)にわたる分化の経路を再構築した。異なるiPSC株から作製したオルガノイドでは、脳領域の構成は多様だったが、脳領域の遺伝子発現パターンは、どのオルガノイドでも、おおむね再現性が高かった。チンパンジーとマカクの脳オルガノイドを解析したところ、これらの2つの属の霊長類と比較して、ヒトのニューロンの発生はゆっくりと起こることが分かった。分化経路を偽時系列的に整列させたところ、ヒト特異的な遺伝子発現は、大脳皮質における前駆細胞からニューロンへの細胞系譜に沿った、異なる細胞状態に起因することが分かった。クロマチン接近可能性は皮質発生中に動的に変化し、ヒトとチンパンジーの間には、ヒト特異的な遺伝子発現や遺伝的変化と相関した接近可能性の分岐があることが分かった。最後に、単一核RNA塩基配列解読解析により、成体の前頭前皮質におけるヒト特異的な発現をマッピングし、成体期まで持続する発生生物学的相違と、成体の脳だけで起こる細胞状態特異的な変化を特定した。我々のデータは、大型類人猿の前脳発生の時間的な細胞アトラスを提供し、ヒトに固有の動的な遺伝子調節の特徴を明らかにしている。

