神経科学:成体神経幹細胞では分化の開始は転写後に制御される
Nature 566, 7742 doi: 10.1038/s41586-019-0888-x
遺伝子発現の転写後調節が、組織再生のための幹細胞分化を制御するかどうかは不明である。静止状態の幹細胞ではタンパク質合成のレベルが低い状態にあり、これは脳だけでなく骨髄や毛包においても、完全に機能する幹細胞のプールを維持するために重要である。ニューロンもメッセンジャーRNA(mRNA)の一部を翻訳抑制状態に維持しており、それらは細胞内外のシグナルに対し「オンデマンド」で応答する。このようにmRNAの一般的な利用可能性をタンパク質への翻訳から切り離すことで、環境変化への即座の応答が促進され、細胞内で最もエネルギーを消費する過程であるタンパク質産生が過剰になることを防いでいる。しかし、転写後調節がいつ獲得されるのか、そして成熟の異なる段階に沿ってタンパク質合成がどのように変化するのかは分かっていない。今回我々は、in vivoで幹細胞がニューロンへと分化するときに、タンパク質合成が非常に動的に変化することを示す。RiboTagマウスモデルを用いて個々の転写産物を調べたところ、幹細胞はほとんど区別なく多くの転写産物を翻訳するが、分化が開始すると次第に翻訳が調節されるようになることが分かった。神経原性の子孫細胞が生じるときには、幹細胞性因子のSOX2やPAX6をコードするmRNAや翻訳装置の構成要素をコードするmRNA(ピリミジンリッチモチーフが豊富)などのmRNAのサブセットの翻訳が抑制されていた。また、幹細胞が細胞周期を出るにつれて起こるmTORC1の低下は、これらの転写産物の翻訳を選択的に阻害する。我々の結果は、細胞周期が主要な幹細胞性因子の転写後抑制に結び付き、それによって幹細胞性からの脱出が促がされるという制御機構を明らかにしている。

