化学生物学:遺伝的にプログラムされたキラルオルガノボランの合成
Nature 552, 7683 doi: 10.1038/nature24996
酵素の操作および設計に関する最近の進歩によって、天然の触媒レパートリーが生物学にとって新規な機能の数々を持つものにまで拡大されている。しかし、人工的に操作されたこれらの酵素のうち、生体系で機能するものはごく一部である。生物ではまだ発見されていない化学結合を形成する酵素経路を見つけ出すことは、細胞環境では特に困難で、それは、新たな酵素活性の発見だけでなく、目的の変換を行うのに十分な反応性とin vivoでの安定性を併せ持つ試薬の発見にも依存するためである。今回我々は、細菌内でキラルオルガノボランを生成するための遺伝的に完全にコードされたプラットフォームを発見し、進化させて、一般化したことを報告する。海産性好熱性細菌Rhodothermus marinus由来の野生型シトクロムc(Rma cyt c)を有する大腸菌(Escherichia coli)細胞は、ボラン–ルイス塩基錯体の存在下で、ホウ素–水素結合へのカルベン挿入を介して炭素–ホウ素結合を形成することが分かった。この細菌触媒内でRma cyt cを指向性進化させたところ、新規のキラルオルガノボランが16種類得られた。この触媒はグラム規模の生合成に適しており、最高で触媒回転数は1万5300、回転頻度は6100 h−1、鏡像体比は99:1、化学選択性は100%に達した。この生物触媒は鏡像体選択性の調整も可能で、オルガノボラン生成物のいずれの鏡像体も得ることができる。全細胞触媒という状況で進化させると、このタンパク質の活性は、精製された形よりも全細胞系でより高かった。本研究は、DNAにコードされ容易に操作することができるホウ素化反応の細菌プラットフォームを確立するものであり、この操作は化学合成法の開発に匹敵する速さで遂行可能で、達成できる触媒回転数は同種の変換を行う既知のキラル触媒のものより2桁(400倍以上)大きい。細胞内でホウ素を操るこの調整可能な方法は、生体系でのホウ素化学の応用範囲を押し広げると考えられる。

