寄生虫学:単一細胞RNA塩基配列解読によって明らかになったマラリア原虫の有性生殖への拘束のシグネチャー
Nature 551, 7678 doi: 10.1038/nature24280
病原体は伝播と持続のバランスを取らなければならない。熱帯熱マラリア原虫(Plasmodium falciparum)は、最も広まっていて最も毒性の強い寄生性マラリア原虫で、ヒト宿主内に残存し続けるためには赤血球内で継続的に無性生殖を行う必要があるが、一方、蚊媒介伝播では、分裂しない有性生殖段階である配偶子母細胞へ赤血球内で分化しなければならない。どちらの運命に拘束されるかは、すぐ前の細胞周期中に決定されている。この期間は、無性生殖に拘束された単一のメロゾイトが侵入したときに始まり、48時間後に単一シゾントが新しく形成された多数のメロゾイトを放出する時点で終わり、全てのメロゾイトは無性生殖を継続するか、配偶子母細胞へ分化するかのどちらかに拘束される。有性生殖への拘束には、有性生殖発生のマスター調節因子であるap2-g(PF3D7_1222600)が、無性生殖の際のエピジェネティックな抑制状態から転写活性化されることが必要である。この「拘束サイクル」中のAP2-G発現により、これまで未知の機構を介して新生メロゾイトでの遺伝子発現が準備され、有性生殖発生が開始する。持続感染を維持するために、ap2-gの発現はマラリア原虫集団の一部(1~30%、遺伝的背景や増殖条件によって変わる)に制限されている。有性生殖への拘束されたシゾントは集団の一部を占めるのみであり、形態的には無性生殖に拘束されたものと区別できないため、従来のトランスクリプトームのバルクプロファイリングではそれらの特徴的な遺伝子発現を明確にすることは難しかった。今回我々は、有性生殖に拘束された培養マラリア原虫の高度に並列な単一細胞RNA塩基配列解読を用いて、この亜集団内でAP2-Gによって誘導される転写変化を調べた。AP2-Gを条件的にノックダウンしたマラリア原虫系統とNF54野生型マラリア原虫について、さまざまな発生段階の1万8000以上の単一原虫トランスクリプトームを解析したところ、有性生殖に拘束されたAP2-G+成熟シゾントでは、他のAP2転写因子群、ヒストン修飾酵素群、ヌクレオソームポジショニングの調節因子群など、他の遺伝子発現調節因子の発現も特異的に上昇していることが分かった。これらのエピジェネティックな調節因子は、次の細胞周期での配偶子母細胞発生の開始に必要な遺伝子の発現を促進および/あるいは抑制する働きをしているのかもしれない。

