がん:KSRの不活性状態を低分子によって安定化すると、発がん性のRasシグナル伝達が抑制される
Nature 537, 7618 doi: 10.1038/nature19327
Ras–MAPK(マイトジェン活性化プロテインキナーゼ)経路の調節障害は、さまざまながんに見られる初期事象の1つであり、標的化治療に対する抵抗性をもたらす重要な要因でもある。この経路を介するシグナル伝達の持続の原因として最も多いのはK-Rasの変異である。K-Rasは、活性なRAFシグナル伝達複合体の安定化を生化学的に起こりやすくする。Rasキナーゼ抑制因子(KSR)はMAPKの足場タンパク質で、RAFとの二量体形成を介してアロステリック調節を受ける。KSRを直接の標的とすることは、がんの重要な治療法になる可能性があるが、KSRの働きを抑える低分子アンタゴニストがないため、この可能性の検証はこれまで難しかった。今回我々は、発がん性のRasシグナル伝達を選択的に抑制するが、野生型のRasシグナル伝達は抑制しないKSR変異を手掛かりにして、これまで知られていなかったKSRの不活性状態を安定化する化合物群を開発した。APS-2-79をはじめとするこれらの化合物は、RAFのヘテロ二量体形成に拮抗するのに加えて、KSRに結合したMEK(マイトジェン活性化プロテインキナーゼキナーゼ)のリン酸化と活性化に必要なコンホメーション変化にも拮抗することにより、KSRに依存したMAPKシグナル伝達を変化させる。さらに、APS-2-79は負のフィードバックシグナル伝達の解除を抑制し、それによってRas変異細胞株で特異的に複数のMEK阻害剤の作用を増強することから、KSRを標的にして、現在使われているMAPK阻害剤の有効性を高められる可能性があることが分かった。これらの結果から、KSRのコンホメーションの切り替えが、発がん性Rasのドラッガブルな調節因子になることが明らかとなり、また、Ras–MAPKシグナル伝達複合体の酵素活性と足場活性を同時に標的とすることが、Rasをドライバーとするがんに打ち勝つ治療戦略になると考えられる。

