量子物理学:少数個キュービットの量子コンピューターによる格子ゲージ理論の実時間ダイナミクス
Nature 534, 7608 doi: 10.1038/nature18318
ゲージ理論は、ゲージボソンが媒介するものとして、物質の基本構成要素間の相互作用を理解する基礎となる。しかし、ゲージ理論における実時間ダイナミクスの計算は、古典的計算手法では非常に難しいことがよく知られている課題である。そこで近年、ファインマンの量子シミュレーターのアイデアを用いる理論的取り組みが盛んになっている。こうした取り組みでは、工学的に作り出された量子力学デバイスによって理論をシミュレートする手法が考案されているが、難しい点は、ゲージ不変性とそれに伴う局所保存則(ガウスの法則)の実現が必要となることである。今回我々は、少数個キュービットの捕獲イオン量子コンピューター上で(1 + 1)次元の量子電磁力学(シュウィンガーモデル)を実現することによって、格子ゲージ理論のディジタル量子シミュレーションを実験的に実証したことを報告する。我々は、量子ゆらぎに起因する真の真空の不安定性を記述するシュウィンガー機構の実時間発展に注目した。この不安定性は、電子–陽電子対の自発的生成となって現れる。我々の量子リソースを効率よく利用するため、我々は元の問題を、エキゾチックな長距離相互作用が有利となるようゲージ場を消去したスピンモデルへ写像した。この相互作用は、イオン捕獲アーキテクチャー上で直接的かつ効率的に実行できる。我々は、質量生成と真空が持続する振幅を測定し、粒子–反粒子生成のシュウィンガー機構を調べた。さらに、この系におけるエンタングルメントの実時間発展を追跡し、素粒子生成とエンタングルメント生成がどのように直接関連するか明らかにした。今回の研究は、原子物理学実験を用いた、高エネルギー理論の量子シミュレーション実現に向けての第一歩であり、その長期的な目標は、この方法を非アーベル格子ゲージ理論の実時間量子シミュレーションへ拡張することである。

