材料科学:第一原理による固有強誘電スイッチング
Nature 534, 7607 doi: 10.1038/nature18286
分極が異なる領域を分離する分域壁の存在によって、強誘電材料の誘電特性、圧電特性、焦電特性、電子特性が影響を受けることがある。特に分域壁運動は、強誘電材料の特徴的な特性であるヒステリシスループを特徴とする分極スイッチングに不可欠である。実験的には、観測される分極スイッチングと分域壁運動のダイナミクスは、欠陥によって生じるランダムポテンシャルによってピン止めされる弾性界面の挙動として通常は説明される。この挙動は、試料依存性が強く、弾性効果や微細構造効果などのさまざまな外因性効果に影響されるように思われる。理論的には、第一原理に基づくゼロケルビンでの試料の微視的な量を、抗電場などの有限温度の巨視的特性と関係付けることが、材料設計とデバイス性能にとって本質的に重要である。しかし、そうした関係付けがなかったために、計算によってハイスループットで材料を発見するab initio計算に基づく手法を利用できなかった。今回我々は、強誘電材料PbTiO 3の90°分域壁(分極方向が互いに直交する分域を分離する)の分子動力学シミュレーションを用いて、微視的な知見を得た。この知見によって、さまざまな強誘電体における多くの種類の分域壁のダイナミクスを定量化する、核形成と成長に基づく簡単で普遍的な解析モデルの構築が可能になった。次に、有限温度でのヒステリシスループと抗電場の温度依存性と周波数依存性を、第一原理から予測した。その結果、欠陥が存在しなくても、分域壁速度の固有の温度依存性と周波数依存性は非線形クリープ型の領域とデピンニング型の領域で記述できることが分かった。今回のモデルによって、抗電場の定量的な評価が可能になり、得られた結果は、セラミックや薄膜の実験結果とよく一致した。こうしたモデルと実験結果の一致から、強誘電材料が複雑であるにもかかわらず、固有の分域壁運動の簡単で普遍的な機構が典型的な強誘電スイッチングを主に支配していることが示唆され、強誘電材料の特性を予測し最適化する効率の良い枠組みが得られる。

