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がん:エキソソームのマイクロRNAによるPTENの微小環境誘導性の減少が脳の転移性増殖の下地となる

Nature 527, 7576 doi: 10.1038/nature15376

遠隔器官での命に関わるがん転移の発生には、播種性の腫瘍細胞が転移先の著しく異なる微小環境に適応し、共進化する必要がある。起源を同じくするがん細胞でも、異なる器官に転移した後は、異なる遺伝子発現パターンを示すようになる。転移性腫瘍細胞と、個々の転移器官部位における外因性シグナルとの間の動的な相互作用が、その後の転移性増殖に非常に大きな影響を与えているのは明らかである。しかし、播種性の腫瘍細胞がいつどのようにして、転移器官の微小環境から、このような腫瘍細胞のその後の増殖を誘発する必須形質を獲得するかは分かっていない。本研究では、重要ながん抑制遺伝子であるPTENを正常に発現するヒトとマウスの腫瘍細胞は、脳に播種した場合にはPTENの発現が消失するが、他の器官ではそれが起きないことを示す。PTENを消失した脳の転移性腫瘍細胞のPTENレベルは、脳の微小環境を離れると回復する。この脳の微小環境に依存した可逆的なPTENメッセンジャーRNAとタンパク質の減少は、脳のアストロサイトに由来するマイクロRNAにより、エピジェネティックに調節されている。機構的には、アストロサイトに由来するエキソソームが、PTENを標的とするマイクロRNAの転移性腫瘍細胞への細胞間移動を仲介するが、一方、PTENを標的とするマイクロRNAをアストロサイト特異的に枯渇させる、あるいはアストロサイトのエキソソーム分泌を阻害するとPTENの消失が救済され、in vivoで脳への転移が抑制された。さらに、脳の転移性腫瘍細胞で見られたこの適応性のPTENの消失によりケモカインCCL2の分泌が増加し、これによってIBA1を発現する骨髄細胞が動員され、こうした骨髄細胞は、増殖の亢進とアポトーシスの低下を介して脳転移性腫瘍細胞の増殖を互恵的に亢進させる。今回の知見は、異なる器官の微小環境に応じて見られる転移性腫瘍細胞でのPTEN発現の顕著な可塑性を示しており、適応性の転移性増殖の際の転移細胞とその微小環境との間の共進化が必須の役割を持つことを裏付けている。我々の結果は、腫瘍細胞と転移先のニッチとの間の動的で相互的なクロストークを示すものであり、また、特に脳転移患者に対する効果的な抗転移治療の新たな可能性がもたらされるという点で重要である。

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