構造生物学:炭疽菌防御抗原が形成する小孔の原子構造から明らかになる毒素輸送
Nature 521, 7553 doi: 10.1038/nature14247
防御抗原、致死因子および浮腫因子からなる炭疽菌毒素は、炭疽菌(Bacillus anthracis)の主な毒性因子で、人や動物で見られる高い死亡率の原因となる物質である。防御抗原はオリゴマーである小孔前駆体を形成し、これがエンドソームでの酸性化によって膜を貫通する小孔へと変換され、酵素である致死因子や浮腫因子はこのような小孔を通って標的細胞の細胞質へと輸送される。防御抗原は、炭疽菌感染に対するワクチンの成分や治療標的であるだけでなく、タンパク質輸送機構を解明するための優れたモデル系でもある。生化学的また電気生理学的研究の結果に基づいて、オリゴマーを形成している複数個の防御抗原中に含まれる427番目のフェニルアラニン残基が集まって組み立てられたファイ(Φ)・クランプが、電荷状態に依存するブラウン・ラチェットによりタンパク質輸送を触媒すると考えられてきた。防御抗原が形成する小孔前駆体の原子構造は得られているが、防御抗原が低いpHを感知してこれを活性を持つ小孔に変換し、致死因子や浮腫因子を膜を通過して輸送する仕組みは、小孔の原子構造モデル無しでは十分に解明できない。今回、電子を直接カウントする低温電子顕微鏡法により、防御抗原が形成する小孔の構造を2.9 Å分解能で決定した。この構造から、ずっと以前から求められていた触媒性Φクランプと膜貫通輸送チャネルが明らかになり、タンパク質輸送のブラウン・ラチェットモデルが裏付けられた。4つの構造の比較から、小孔前駆体から小孔への変換の際のコンホメーション変化が明らかになり、これは低いpHを感知して膜貫通チャネルを形成するための多段階からなる機構を裏付けるものである。

