神経科学:音声言語に関わる感覚–運動変換は左右両側の脳半球で起こる
Nature 507, 7490 doi: 10.1038/nature12935
音声言語の情報処理の研究では従来、聴覚からの知覚入力と発話運動による出力との強い結び付きが強調されてきた。そこにはある種の等価性(parity)が不可欠で、聴覚に基づく脳内表現と発話に基づく脳内表現とが1つの統合されたインターフェースを形成して、構文や意味などの高次言語処理過程へ進むのを助けることが必要であり、こうした言語処理は優位な脳半球(通常は左半球)で計算されると考えられている。音声言語の知覚と発話の統合については種々の理論が提唱されているが、その基盤にある神経機構はよく分かっていない。発話および音声言語処理の初期のモデルでは、知覚した情報の処理は左半球の後部上側頭回(ウェルニッケ野)で行われ、発話運動過程は左半球の下前頭回(ブローカ野)で行われるとされた。また、感覚活動は結合繊維路を介した発語活動と連係しており、そのために音声言語の感覚–運動系は左半球に局在するという説も提唱された。最近の知見では、音声言語の知覚は左右両側の脳半球で起こることを示す証拠が得られているが、現在主流のモデルではいまだに、音声言語の感覚–運動系は左脳半球に局在しており、感覚による聴覚表現から運動による発話表現への変換を促進しているとしている。しかし、こうした感覚–運動系による音声言語変換の計算処理が片側の脳半球に局在するという説の証拠は間接的なものであり、主として、復唱障害(伝導性失語)のある脳卒中患者や、内言(covert speech)と血流動態の機能的画像化法を使った研究に基づいている。音声言語の感覚–運動系が、高次の言語処理と同様に半球局在性なのか、あるいは音声言語の知覚と同様に両半球性なのかは、議論が決着していない。今回我々は、外言(overt speech)などの感覚–運動課題を実行中の被験者で直接、神経活動を記録し、感覚–運動変換が両半球で起こっていることを示す。左右両側の下前頭葉、下頭頂葉、上側頭葉、運動前皮質、体性感覚皮質に電極を置いて記録すると、音声言語知覚時と口頭での単語復唱課題の遂行中に、ロバストな感覚–運動性神経応答が見られた。また、単語によらない変換課題を用いることで、両半球性の感覚–運動応答が音声言語知覚に基づく表現と発話に基づく表現の間の変換を行えることが示された。これらの結果から、非語彙的音声の感覚–運動系の両半球性が確認された。

