Letter

進化遺伝学:ヒトおよび類人猿の多能性幹細胞で見られる差異のあるL1調節

Nature 503, 7477 doi: 10.1038/nature12686

ヒトと非ヒト霊長類(NHP)の間の細胞および分子的な差異を明らかにすることは、人類の進化や多様性の基本的理解に不可欠である。現在まで、ヒト、チンパンジー(Pan troglodytes)およびボノボ(Pan paniscus)の間の比較研究のほとんどは、主に保存された組織を用いて行われてきた。しかし、このような組織試料は、生細胞の挙動の特徴的な形質を正確に示しておらず、また、遺伝学的な操作をすることもできない。我々は、誘導多能性幹(iPS)細胞が、ヒトとNHPの間で見られる対応する表現型の差異を決定するための独特な生物学的資源になる可能性があり、またこのような差異は適応や種分化に重要となり得ると考えた。本論文では、大型類人猿進化に寄与した可能性のある因子を探索するための新しい手法として、チンパンジーおよびボノボ由来のiPS細胞を作製し、初めての特徴付けを行ったことを報告する。ヒトとNHPのiPS細胞の遺伝子発現比較解析から、L1(long interspersed element-1、LINE-1とも呼ばれる)トランスポゾンの調節に違いがあることが明らかになった。哺乳類進化の変化の推進力であるL1エレメントは、霊長類の進化過程で活性を保持し続けてきたレトロトランスポゾンである。NHPのiPS細胞でのL1の制限因子APOBEC3B(A3Bとも呼ばれる)およびPIWIL2のレベル低下は、L1の可動性の上昇および内因性L1メッセンジャーRNAレベルの増加と相関していた。さらに、iPS細胞でA3BおよびPIWIL2のレベルを操作した結果は、これらのタンパク質のレベルとL1レトロ転移の間の因果的逆相関を裏付けるものだった。また我々は、ヒトに比べてチンパンジーのゲノムでは、種特異的L1エレメントのコピー数が増加していることを見いだし、これによってNHPにおけるL1の可動性上昇は、培養iPS細胞に限定されておらず、生殖細胞系列あるいは胚性細胞(霊長類進化の過程で発生学的に生殖細胞系列指定の上流に位置する)にも起こっているかもしれないという考えが裏付けられた。我々は、L1の可動性の違いが、ヒトとNHPのゲノムを異なったものにした可能性があり、今も適応における重要性を持ち続けているのではないかと考える。

目次へ戻る

プライバシーマーク制度