材料:結晶固体における予想外のひずみ剛化
Nature 496, 7445 doi: 10.1038/nature12008
ひずみ剛化(strain-stiffening)は、ひずみが大きくなると材料剛性が高くなることで、多くの軟質生体材料が過剰変形を阻止して組織の完全性を保護する重要な機構である。ひずみ剛化の基礎科学を理解することや、先進的応用を目指してこの概念を金属やセラミックスの設計に取り入れることは、魅力的な展望である。今回我々は、プロトタイプとしてセメンタイト(Fe3C)とホウ炭化アルミニウム(Al3BC3)を用いて、意外なことに単純な無機結晶固体においてもひずみ剛化が起こり、平衡近傍では変形に対して異常に低い抵抗を示すこれらの2種類の固体に例外的に高い強度をもたらすことを、量子力学計算によって示した。Fe3CおよびAl3BC3では、せん断弾性率に対する理想せん断強度の比は、(010)[001]および(010)[001]すべり系に沿って、それぞれ1.14および1.34という著しく高い値に達している。これらの値は、元のフレンケル値1/2πの7倍以上であり、結晶固体についてこれまで報告された最高値である。Fe3Cに見られるこの並外れた剛性向上は、弱く結合した頂点共有Fe6Cスラブと辺共有Fe6Cスラブとの間の、ひずみ誘起された可逆的「架橋」に起因する。この新しい結合形成によって、大きなせん断変形に抵抗する強い三次元共有結合ネットワークができる。Fe3Cとは異なり、Al3BC3では新しい結合は形成されないが、剛化は起こる。なぜなら、圧縮されたAl–B結合におけるAlとBの強い反発が、既存の共有結合ネットワークを不安定にするためである。これらの知見は、大きなせん断弾性率が材料の硬さや強度の信頼できる予測因子であるという従来の見解に疑問を投げかけ、材料の選択や設計に新たな教訓をもたらすものである。

