ヨーロッパ最古の解剖学的現生人類は、暦年代で現在から約4万3000〜4万2000年前(43〜42 kyr cal BP)に出現したと考えられており、この年代値は、ネアンデルタール人ではなく現生人類が生み出したと推定されるオーリニャック型の遺跡や石器群との関連付けによっている。しかし、現生人類の存在を示す物的証拠はきわめてまれであるため、直接測定された年代は約41〜39 kyr cal BPにとどまり、空白の年代が残されている。今回我々は、層序学的、年代学的、および考古学的なデータを用い、英国のケンツ洞窟遺跡で出土した人類の上顎骨の断片が、それをさかのぼる年代のものであることを明らかにした。この上顎骨(KC4)は1927年に発掘され、当初は後期旧石器時代の現生人類のものと判断された。1989年、加速器質量分析による直接的な放射性炭素年代測定で、36.4〜34.7 kyr cal BPという値が算出された。今回、この遺跡の秩序正しい層序的順序に基づいて、新たに限外濾過した骨コラーゲンの年代値にベイズ分析を施すことにより、1989年の測定年代値がかなり短めに見積もられていたことが明らかになった。今回の測定では、KC4の年代は44.2〜41.5 kyr cal BPになる。その結果、この標本は、同じ年代とされているほかのいずれの現生人類標本と比較しても古く、ヨーロッパの最後のネアンデルタール人とまさに同年代となって、その分類学的帰属がきわめて重要となる。また、KC4が歯の13の形質に関してネアンデルタール人ではなく現生人類の特徴を有していることもわかったが、そのほかにネアンデルタール人との類似性を示す形質が3つ、類似性が不明瞭な形質が7つあった。これによってKC4は、ヨーロッパ北西部の既知の解剖学的現生人類として最古のものとなり、年代が測定された中で最古のオーリニャック型遺物と最古のヒト骨格遺物との重大な溝を埋め、4万年以上前に初期の現生人類がヨーロッパ全体に広く急速に分散していったことを実証している。