Letter 生理:昆虫におい受容体の1つでは、天然の多型がにおい感受性とDEET感受性を変化させる 2011年10月27日 Nature 478, 7370 doi: 10.1038/nature10438 蚊などの吸血性昆虫は、吸血される宿主脊椎動物が発する体熱、二酸化炭素、においに強く誘引されるため、ヒト感染症の効率の高い媒介生物となる。DEET(N,N-ジエチル-メタ-トルアミド)を含む昆虫忌避剤は非常に効果が高いが、この化合物が刺咬昆虫を撃退する仕組みは、数十年にわたる研究にもかかわらず、まだ結論が出ていない。DEETは、昆虫の味覚受容体に作用することによって接触性化学忌避物質として近距離で働くとともに、嗅覚系に作用することによって長距離でも働く。気体状DEETで観察される行動への作用については、2つの相反する機構が提案されている。すなわち、DEETが嗅覚系を阻害して対象のにおいを認識できなくするという説と、昆虫の回避行動を誘発する嗅覚ニューロンをDEETが活性化することにより昆虫を能動的に寄せつけないようにするという説である。本論文では、DEETが、昆虫のにおい受容体複合体が形成するにおい物質作動性イオンチャネルを変調させるモジュレーターとして機能することを明らかにする。機能を備えた昆虫のにおい受容体複合体は、共通の補助受容体ORCO(以前はOR83Bと呼ばれていた)とにおいに対する選択性をもたらす1個または複数個の多様なにおい受容体サブユニットとで構成されている。DEETはこの複合体に作用して、においが誘発する活動を促進または阻害するか、あるいは自発的活動のにおいによる抑制を阻害する。このような変調は、特異的なにおい受容体とリガンドとなるにおい物質の濃度や種類に依存して起こる。ブラジル由来のショウジョウバエ(Drosophila melanogaster)の1系統で、受容体OR59Bの第2膜貫通ドメイン中にアミノ酸1個の多型が見つかり、これが原因でOR59Bがにおいリガンドによる阻害やDEETによる変調に対して非感受性になっていることがわかった。これらのデータは、昆虫のにおい特異的受容体のにおいリガンドやDEETに対する感受性が、自然変異によって変化する可能性を示している。またこれらの結果は、DEETが分子レベルの「かく乱物質(confusant)」として昆虫の嗅覚暗号を混乱させるという仮説を裏付けており、DEETが多種類の昆虫に幅広く有効であることの説得力ある説明となる。 Full Text PDF 目次へ戻る