Letter 生理:TRPV1の神経節特異的スプライシングが吸血コウモリの赤外線感知の基盤となる 2011年8月4日 Nature 476, 7358 doi: 10.1038/nature10245 吸血コウモリ(Desmodus rotundus)は偏性吸血動物で、動物の生き血を吸うという生活様式に適した特殊な仕組みを進化させてきた。このような適応の中で最も重要なのが赤外線放射感知能力で、獲物となる温血動物の体の高温部位を知る方法として使われている。脊椎動物の中で赤外線放射を感知する能力を持つのは、吸血コウモリ、ボア、ニシキヘビ、マムシだけである。いずれの動物でも赤外線シグナルを感知するのは、顔面にある特殊化したピット器官を神経支配する三叉神経繊維である。つまり吸血コウモリやヘビは、赤外線放射感知に特化したシステムを発達させることによって、温度感覚を極限まで高めてきたのである。したがってこれらの生物は、種特異的あるいは細胞型特異的に起こった温度受容器の進化的調整の分子機構、遺伝的機構を調べる手段となる。我々は以前に、ヘビでは、温度感受性でないイオンチャネルである脊椎動物TRPA1(transient receptor potential cation channel A1)から赤外線検出器が生じたことを明らかにした。本論文では、吸血コウモリが、活性化の閾値温度を約30℃に下げることによって既存の温度感受性チャネルTRPV1を調整していることを明らかにする。これは、TRPV1転写産物の選択的スプライシングによって、カルボキシ末端の細胞質ドメインを短くしたチャネルを作出するという方法で行われる。このようなスプライシングが起こるのは三叉神経節に限られていて、後根神経節では起こらないため、体性求心性神経においてTRPV1が担う侵害熱検出器としての役割は維持される。この仕組みはコウモリのTrpv1遺伝子の独特な構成を反映しており、このような構成はローラシア獣上目の哺乳類(ウシ、イヌ、モグラ)に特徴的に見られることがわかり、これらがコウモリと系統発生的に近い関係にあることを裏付けている。これらの知見は、温度感応性神経繊維の生理的調整の新しい分子機構を明らかにしている。 Full Text PDF 目次へ戻る