Letter 進化:系統樹が種分化と「赤の女王」仮説の新しい解釈をもたらす 2010年1月21日 Nature 463, 7279 doi: 10.1038/nature08630 「赤の女王」仮説は、自然界で種は常に進化し続けるが、必ずしもよりよい適応を遂げることはないという見方を述べたものだ。この説は、進化生物学の中でもとりわけ目立つ比喩表現の1つだが、種分化が一定の速度で生じるという主張は、事実上全く同じ帰結を予測する競合モデルに対して検証されていないし、種分化速度が一定になることの原因となるメカニズムも提案されていない。今回我々は、動物、植物、菌類の101種類の系統樹を用い、4つの競合モデルに対して種分化が一定速度になるという主張を検証した。系統樹の各枝長には、連続して起こった種分化間の時間、あるいは進化的変化が量的に記録されている。これらの競合モデルでは、系統樹の枝長データの分布を予測するのに、各要因が組み合わさって種分化を引き起こす仕組みを特定したり、1つの系統樹を通じて種分化速度がどのように変化するのかを記述したりしている。相乗的に働く小規模な事象の蓄積の後に種分化が生じるとする仮説は、8%の系統樹でしか裏付けられず、相加的に働く小規模事象の蓄積の後だとする仮説に至っては全く裏付けが得られなかった。系統樹のうち別の8%では、種分化の確率は祖先種からの分岐の程度により変化することが示唆され、6%では、種分化速度が分類群間で異なることが示唆された。比較解析によって、系統樹の78%は、各々の頻度はごく低いが単独で種分化を引き起こすのに十分な単発事象から新種が生じるという、最も単純なモデルに適合した。このモデルにより、種分化速度は一定であると予測され、「赤の女王」仮説の新たな解釈が得られる。つまり、悪化する環境下での生き残りレースに負ける種という表現を、生殖隔離を生じるようなまれな確率的事象と種分化を関連付ける見方に置き換えるのである。種の放散や、一部の分類群内の種数に多寡がある理由を解明しようとするなら、近縁な生物群間に共通すると考えられる種分化の要因がどのように組み合わさるかよりも、こうした要因がどれほどあるかに注目すべきであろう。 Full Text PDF 目次へ戻る