遺伝子重複は、少なくともホールデン以降、進化上の大きな変化や適応の重要な原因の1つと認められている。また、ゲノムの大きさに大きな差が存在するのは、重複した遺伝子がその後たどる運命の多様さが原因の1つである可能性がある。重複した遺伝子の大部分がたどると予想される運命には、主に非適応型の置換が起こって重複で生じたコピーの一方が機能を喪失する、あるいは機能が縮小されるなどがあり、このどちらの場合にも新規機能の獲得は起こらない。したがって、進化上の新規性に結びつくような適応進化の機構の解明は、進化に関する重要な問題である。現在、遺伝子重複がかかわる適応の仕組みとして最も広く認められているのは、重複の後に一方のコピーが方向性選択を受けて新規な機能を果たすようになるという新機能獲得(neo-functionalization;NEO-F)説である。まだ研究中ではあるが、もう1つの適応型の運命として提案されているのが、適応的対立の回避(escape from adaptive conflict;EAC)説で、1コピーの遺伝子が選択されて、祖先型の機能を維持したまま新規な機能を果たすようになるというものである。この遺伝子では、新規な機能と祖先型の機能が互いに有害な多面発現効果を及ぼすために、どちらの機能の改良も制約されてしまう。重複が起こると、一方のコピーは新規機能の改良に制約を受けなくなり、もう一方は祖先型の機能を改良するような選択を受ける。本論文では、NEO-FとEACの区別に使用できる2つの判断基準を初めて報告する。そして、正の選択についての試験と酵素機能の解析の両方を行うことにより、アサガオ(Ipomoea)のアントシアニン生合成経路にかかわる重複遺伝子での適応進化的な変化は、EACと解釈すれば最もうまく説明できることを示す。このEACという現象は、これまで考えられていたより頻繁に起こっているとみられ、進化上の新規性を発生させる重要な機構の1つであると我々は考える。