Letter

医学:臨界パーコレーション現象としてのペストの個体数閾値 

Nature 454, 7204 doi: 10.1038/nature07053

パーコレーション(浸透)理論は、多孔性媒質中の液体のゆっくりした流れと関連付けられることが最も多く、物理科学によく応用されている。疫学分野でも、宿主が植物や大量の土壌であって、そのため空間的に固定されているような疾患系での応用が期待されてきた。しかし、これまでに自然状態での実例は報告されていない。パーコレーション理論で最も関心が持たれる中心的問題、無限につながったクラスターができる可能性で、感染症の場合にはこれが大流行が起こる正の確率に相当する。カザフスタンのオオスナネズミRhombomys opimus集団における疫病(ペスト菌Yersinia pestis感染)の保存されていた記録から、宿主オオスナネズミがつくった巣穴系の約0.33以上に家族集団が住んでいるときに限って、動物間流行が発生することが明らかにされている。この個体数閾値(abundance threshold)を決めている仕組みは解明されていない。本論文では、これがパーコレーション(浸透)閾値であることの証拠を示す。この閾値は、家族集団間で感染力をもったノミを運搬するオオスナネズミの動きと、オオスナネズミが生息する連続した地形の広さとのスケールの違いから生じる。従来の理論では、感染症の拡大の個体数閾値は、宿主間の伝播が密度依存性で、基本再生産数(R0)が個体数とともに上昇して閾値で1に達するような場合に生じると考える。しかしパーコレーション閾値は別の空間的に明確な閾値で、系内の長い距離のつながりを示し、R0=1にはならない。個体数閾値は、ワクチン接種や野生動物の駆除などによって感受性個体を減らすことにより、感染症を制御しようという試みの理論基盤である。1つの病気の系でパーコレーション閾値の天然の例が初めて明らかになったことで、ライオン(Panthera leo)のウイルス感染流行などのような他の侵入閾値(invasion threshold)や、アナグマ(Meles meles)のウシ結核(ウシ型結核菌Mycobacterium bovisが原因)といった他の病気の系についての再評価が求められる。

目次へ戻る

プライバシーマーク制度