観測機器OMEGA(Observatoire pour la Mineralogie, L’Eau, les Glaces et l’Activitié)によって火星上で最初にはっきりと同定された含水鉱物の一種であるフィロケイ酸塩鉱物は、火星上の岩石と水との相互作用の痕跡を保存している。火星の全球マッピングから、フィロケイ酸塩鉱物は広範に分布しているが、みたところでは古い地域に限られており、さらに鉱物の種類(Fe/MgやAlを含むスメクタイト質粘土鉱物)が比較的限定されていることがわかっている。これは、フィロケイ酸塩鉱物の形成はノアキス紀(火星のいちばん古い地質年代)に起こり、フィロケイ酸塩鉱物形成に必要な条件(中程度から高いpHの水の活発な活動)は火星史のいちばん古い年代の表層環境に特有のものだったことを示していると解釈された。本論文では、小型撮像分光装置(CRISM)による、フィロケイ酸塩鉱物に富んだ領域の観測結果を報告する。カオリナイト、クロライト、イライト、およびムスコバイトと、新規のケイ酸塩水和物族(含水ケイ酸)が見つかり、フィロケイ酸塩鉱物の多様性が広がった。さまざまなFe/Mg-OHフィロケイ酸塩鉱物が観測され、ノントロナイトやサポナイトのようなスメクタイトが最も一般的であるものの、一部の地域にはクロライトが存在していることも見いだされた。ニリ・フォッサ地域における層序関係は、フィロケイ酸塩鉱物を含むユニットの上をカンラン石に富んだ鉱物が覆う形になっており、これは、カンラン石を含むユニットが置かれる前に水質変成作用が停止していたことを示す。南半球高地のノアキス・クレーター地形におけるクレーターの周縁、噴出物や中央丘で、Fe/Mgフィロケイ酸塩鉱物が数百カ所に発見されたことは、深部から変成地殻が掘り出されたことを示している。さらに、水によって作られたことが明瞭な堆積鉱床内にフィロケイ酸塩鉱物を見いだした。これらの結果は、居住可能性をもたらす非常に多様な環境がノアキス紀にあったことを示している。