猛暑によって増加した住民の移動
Nature Climate Change
2014年1月27日
過去20年間にパキスタンの農村部で住民の長期的移動が増えた理由が、多雨や洪水、高湿度ではなく、気候に関連する熱ストレスだったことが明らかになった。今回得られた知見は、パキスタンにおける住民の長期的移動に関する決定が異常気象の影響を受ける過程についての初めての定量的証拠とされる。この結果を報告する論文が、今週掲載される。
パキスタンは、気候変動に対して脆弱なことが知られ、そのために一部の国民が移動せざるを得なくなることが日常茶飯事になっている。この問題の解決を試みる活動が行われているが、同国の社会的保護戦略と国際的救援活動が最も的確に対応したのは、洪水の被災者だった。
今回、Valerie Muellerたちは、1991~2012年にパキスタン農村部の583世帯の4,428人の長期的移動を調べ、異常気温(通常、11月から4月)を経験すると、村から移動するという一貫した傾向が見られるが、異常降雨があっても、それに応じた動きが非常に少ないことを明らかにした。そして、Muellerたちは、村から移動するという決定が、猛暑の時期の収入減によって影響される可能性があると考えている。現に、Muellerたちは、異常高温になると、農業所得が大きく損なわれ、3分の1以上が失われるという計算結果を示している。農業以外の所得も熱ストレスによって減少するが、農業所得ほど大きくなかった(16%減)。これに対して、降水量が多いと、全ての収入源が大きく増えることも指摘されている。
以上の新知見をもとに、Muellerたちは、救援活動の重点を変えて、国民一人一人が異常気温への備えを行い、適応する能力を高められるような支援をすべきだと提唱している。また、Muellerたちは、移動を思い立たせる要因に関する知識を深める研究を続けることが、自然災害と移動、強制退去に対応するための適切な政策設計にとって大切だと考えている。
doi:10.1038/nclimate2103
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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