【がん】FAKの阻害は徹底的に行わないと逆効果?
Nature Communications
2013年6月26日
接着斑キナーゼ(FAK)という酵素の阻害によってがんと闘う方法は、これまで考えられていたほど単純なものではないことを示唆する研究結果が明らかになった。FAK阻害剤の大量投与は、がん対策として非常に有効なことが明らかになっている。ところが、今回の研究では、がんの進行におけるFAKの生物学的役割が複雑で、FAKの阻害が不十分な場合には、腫瘍の増殖が抑制されるどころか促進される可能性のあることが明らかになったのだ。この結果を報告する論文が、Nature Communicationsに掲載される。
FAKは、体内の大部分の細胞で発現し、新しい血管の形成(血管新生)など、さまざまな生理過程を調節している。腫瘍は、血管新生に依存して、増殖の継続に必要な栄養素の供給を確保していることから、現在、FAK阻害剤が抗がん剤として開発されている。今回、Vassiliki Kostourouたちは、低濃度のFAKを産生するマウスを作製し、このマウスにおける腫瘍が通常のマウスより大きく増殖し、より多くの血管新生が生じるという逆説的な結果を得た。これと同じ状況は、正常なマウスに低用量のFAK阻害剤を投与した場合にも見られた。こうした結果は、FAKの阻害が一般的に腫瘍の増殖を遅らせるという仮説に反している。しかし、この仮説が、FAK阻害剤の抗がん剤としての開発を促しているのだ。
今回の研究で得られた知見は、FAK阻害剤の大量投与によってFAKの十分な阻害を確実に行うことが治療の成功に必要なことを示唆している。
doi:10.1038/ncomms3020
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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