Research Press Release
T細胞の疲弊
Nature Immunology
2013年5月6日
T細胞の“疲弊”は、慢性のウイルス感染の際に過剰に刺激されたT細胞が機能不全に陥った状態ではなくて、T細胞分化の適応状態なのかもしれないという。T細胞疲弊を調節するしくみがさらに解明されれば、HIVやC型肝炎ウイルスといったウイルスの持続感染やがんの治療について、重要な手がかりが得られる可能性がある。
慢性ウイルス感染では、ウイルスや持続的な炎症による刺激の繰り返しが引き金となって、T細胞の“疲弊”が起こる。この過程では、そのウイルスに特異的なT細胞が次第に機能を失い、最終的には死んでしまう。これは急性ウイルス感染とは対照的で、急性感染では機能をもったエフェクターT細胞と記憶T細胞が生成し、同じウイルスに再度出会った場合には、これらの細胞が協調して二次免疫応答を起こす。今回Dietmar Zehnたちは、慢性感染を引き起こす系統のリンパ球性脈絡髄膜炎ウイルス(LCMV)を感染させたマウスから“疲弊した”T細胞を単離して、急性感染を引き起こす系統のLCMVを感染させたマウスに移植すると、このT細胞が増殖して効果的な免疫応答を引き起こすことを明らかにした。この結果が示唆するように、T細胞の疲弊はT細胞が機能を失った状態ではなく、慢性感染という特異的な環境によって引き起こされる、T細胞の分化がしっかり制御された安定的段階なのかもしれない。
doi:10.1038/ni.2606
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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