Research Press Release

Nature's 10:2025年の科学に影響を与えた10人

Nature

2025年12月9日

2025年における最も重要な科学ニュースの中心となった10人を選出する毎年恒例のリスト「Nature's 10」が今週のNature に掲載される。「今年のリストは、新たなフロンティアの開拓、画期的な医療進歩の可能性、科学的公正を守る揺るぎない姿勢、そして人命を救う世界的政策を形作る人々を称えている。自然界を理解し、多くの場合それを助けるために懸命に働く多くの人々の活動を見るのは感動的である。だからこそ彼らは今年のNature's 10に選ばれている。」と、Nature の特集編集者であるBrendan Maherは述べている。

2025 年は、科学者たちが知識の限界を押し広げた年だった。チリにベラ・ルービン天文台(Vera Rubin Observatory)が開所し、これまで以上に遠くの銀河を観察できる見通しである。カリフォルニア大学デーヴィス校の物理学者、Tony Tysonは、8億1,000万USドルを投じたこの望遠鏡の開発に欠かせないデジタルカメラ技術の研究に携わってきたが、その構想は 30 年以上も前に思い描いたものだという。「リスクは大きかったが、見返りも大きかった。私たちはそのリスクをとった」と彼は述べている。

中国・三亜にある中国科学院深海科学技術研究所の地球科学者、Mengran Du は、彼女のチームが潜水艇で海面下 9,000 メートルに潜り、奇妙な生物たちが息づく生態系を初めて垣間見たとき、別の種類のリスクに直面した。イスラエル・レホボトのワイツマン科学研究所のシステム生物学者、Yifat Merblは、細胞内のタンパク質分解リサイクル機構であるプロテアソームを研究し、ヒト免疫系のまったく新しい側面を発見した。彼女は、特定の条件下でプロテアソームがタンパク質を分解し、感染症と戦う抗菌ペプチドを生成することを突き止めた。

生物医学研究者たちは、希少疾患治療における二つの重要な進展に注目している。ユニバーシティ・カレッジ・ロンドンの神経学者、Sarah Tabriziは、ハンチントン病(Huntington’s disease)と呼ばれる致死的な遺伝性疾患の発症を遅らせる治療法を提供したチームの一員である。科学者たちは、数十年にわたりこの病気の治療法を探求してきた。一方、ペンシルベニア州フィラデルフィア郊外に住む幼児、KJ Muldoonは、医師が革新的な遺伝子編集療法を施した後、世界中に知られるぽっちゃりした頬の笑顔を見せた。この治療により、彼の体がタンパク質を処理するのに苦労していた超希少疾患が治癒したようである。

2025年はまた、変革の年でもあった。中国の金融家、Liang Wenfengは1月にDeepSeekを発表し、人工知能の新たな世界に衝撃を与えた。この大規模言語モデルは、既存の最高水準モデルと同等の性能を持ちながら、ごくわずかなリソースで構築されたものである。「オープンウェイト(open weight)」として公開されたため、無料でダウンロードして改良が可能であり、科学者にとって大きな恩恵となっている。インド・ライプールでデータ科学者として活動するAchal Agrawalは、自国における研究公正問題の解明に尽力した。その成果は、インド高等教育機関のランキング方式に画期的な政策変更をもたらす一因となった。

公衆衛生支援のため、ブラジル・ベロオリゾンテのオズワルドクルス財団に所属する農業研究者、Luciano Moreiraは、ボルバキア(Wolbachia)菌に感染した蚊を生産する初の工場を設立した。有害なヒト病原体を拡散する能力が損なわれたこの昆虫を数百万匹放つことで、Moreiraは致死性のウイルス性疾患であるデング熱の蔓延を食い止めたいと考えている。南アフリカ・プレトリアに拠点を置くウィットウォーターズランド大学の公衆衛生担当者、Precious Matsosoは、長年にわたる困難な交渉の末、世界初のパンデミック対策条約の成立を仲介した。また、微生物学者および免疫学者であるSusan Monarezは、苦境にある米国疾病予防管理センター(CDC:Centers for Disease Control and Prevention)の所長に採用されたものの、すぐに解任された。彼女はトランプ政権から同僚の公務員たちの解雇や科学的根拠のないワクチン政策の推進を命じられた際、これに抵抗した。「世界中の科学にとって困難な年であったが、こんなにも多くの研究者たちの素晴らしい発見や尽力に触れられたことは安堵でもあった──その中のほんの一握りだけが今年のリストに名を連ねている」とMaherは述べている。

Nature's 10: Ten people who helped shape science in 2025
https://www.nature.com/articles/d41586-025-03848-1  

doi:10.1038/d41586-025-03848-1

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