微生物学:再生可能なプラスチックの生産に大腸菌を使用
Nature Chemical Biology
2025年3月18日
大腸菌(Escherichia coli)細菌は、生分解性プラスチックの生成に使用できる可能性がある、ことを報告する論文が、Nature Chemical Biology に掲載される。研究で説明されている細菌の遺伝子操作システムは、再生可能な資源を使用して、望ましい熱的および機械的特性を持つプラスチックの生成に役立つかもしれないと、著者らは示唆している。
世界のプラスチック生産量は、2022年には約4億トンに達すると推定されており、そのほとんどは石油を原料とする化学プロセスによるものである。一方、微生物によるポリマーの生産は、より持続可能な方法で生分解性の代替品を開発する可能性を秘めている。生物がDNA、RNA、セルロース、およびタンパク質などのポリマーを自然に合成できることはよく知られている。しかし、プラスチックの製造に使用できるポリマーを合成する微生物の利用に科学者が注目し始めたのはごく最近のことである。
Sang Yup Leeらは、大腸菌で生成した一連の酵素を使用してポリエステルアミド(PEA:poly(ester amide))を生成するプロセスを開発した。このプロセスでは、6種類のアミノ酸のうちの1つまたは複数と、1つまたは複数のヒドロキシ酸を結合させて高分子プラスチックを生成する。このプロセスを最適化するためのさらなるテストの後、Leeらは、グルコースを主要成分として用い、大腸菌内でポリマーを生成した。また、使用する異なるアミノ酸の量と構造が、PEAの生成と特性にどのような影響を与えるかも調査した。概念実証として、著者らは大型のバイオリアクターで1リットルあたり約55グラムのPEAを生成し、PEAの生成は容易にスケールアップできることを実証した。また、このPEAの物理的、熱的、および機械的特性をテストし、最も広く使用されているプラスチックのひとつである高密度ポリエチレン(polyethylene)の特性と同等であることを示し、PEAが再生可能な代替品となり得ることを示唆している。
この方法は、現在の化学的方法よりもいくつかの利点があり、幅広い種類のPEAを容易に入手でき、プラスチックとして使用できるポリマーの持続可能な生産が可能であると、著者らは結論づけている。
- Article
- Published: 17 March 2025
Chae, T.U., Choi, S.Y., Ahn, DH. et al. Biosynthesis of poly(ester amide)s in engineered Escherichia coli. Nat Chem Biol (2025). https://doi.org/10.1038/s41589-025-01842-2
doi:10.1038/s41589-025-01842-2
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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