人類学:長期的レジリエンスは苦難によって構築される
Nature
2024年5月2日
人間社会が頻繁にかく乱されると、人間集団がその後の低迷期を耐え抜き、回復を遂げる能力が高まることを示した論文が、Natureに掲載される。今回の研究は、人類の3万年の歴史を解析したものであり、今後の人口増加と人間集団のレジリエンス、そして現代のレジリエンス構築活動にとって重要な意味を持つ。
レジリエンスとは、危機を耐え抜き、危機後に回復を遂げる能力のことであり、全ての人間社会のウェルビーイングと存続にとって極めて重要だ。現代のレジリエンスを対象とした研究は、これまで数多く行われてきたが、長期的レジリエンスの基盤となる要因についてはあまり研究されていなかった。今回、Philip Ririsらは、こうした知識の不均衡に取り組むため、有史以前の人間集団が環境的かく乱や文化的かく乱を耐え抜いたパターンを定量化した。このメタ解析は3万年間にわたるもので、世界16カ所からデータが収集された。その結果、低迷期の発生頻度が高いほど、人間集団がかく乱に耐え、かく乱後に回復を遂げる能力が高まることが明らかになった。こうした影響は、土地利用パターンによって強く調節を受ける。農耕社会と牧畜社会は、人口減少の危機に対してより脆弱だが、全体的にはレジリエンスが高かった。
生態学の研究でも、自然かく乱が頻繁に起こると、主要な生態系サービスの長期的レジリエンスが高まることが明らかになっており、今回の結果と類似している。さらに、Ririsらは、人類の長期的な人口増加が、少なくとも部分的には、脆弱性、耐性、回復の正のフィードバックサイクルによって持続してきた可能性があるという考えを示している。
doi:10.1038/s41586-024-07354-8
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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