Research Press Release

経済学:EUと英国の海水準上昇による経済的損失は2100年までに最大8720億ユーロに達する可能性がある

Scientific Reports

2024年1月19日

EUと英国において海水準上昇の被害によって生じる経済的損失が、21世紀末までに最大8720億ユーロに達する可能性のあることを示したモデル化研究について報告する論文が、Scientific Reportsに掲載される。

今回、Ignasi Cortés Arbués、Theodoros Chatzivasileiadis、Tatiana Filatovaらは、ヨーロッパの271地域に関して、高排出シナリオ(SSP5-RCP8.5)で2015年以降に新規の海岸保全対策が実施されないという前提で、海水準の上昇が経済に及ぼす潜在的影響をモデル化した。今回の研究では、これまでに開発された経済モデルと海水準上昇の影響予測データ、投資動向データ、1995~2016年にヨーロッパで発生した155件の洪水による経済的損失の分布に関するデータが併用された。そして、全ての地域で海水準上昇が起こらず、年率2%で経済成長するというシナリオの場合と比較して、どのような経済的利益と損失が生じる可能性があるかが推定された。それに加えて、海水準上昇後のさまざまな経済部門における目標を絞った投資が地域経済に与える影響のモデル化も行われた。

その結果、高排出シナリオの場合には、海水準上昇が起こらないシナリオの場合と比較して、2100年までに英国とEU全体で合計8720億ユーロの経済的損失が生じる可能性があると推定された。海水準上昇の経済的影響には地域差があり、経済的損失の大半は、イタリアのヴェネト州とエミリア・ロマーニャ州、ポーランドの西ポモージェ県などの沿岸地域に集中していた。最も大きな経済的損失が生じる地域では、2100年までに地域内総生産(地域内GDP)が最大21%減少すると推定された。この他の経済的損失が比較的大きい地域は、バルト海地方、ベルギー沿岸部、フランス西部、ギリシャに集中していた。これに対して、ドイツ、オーストリア、ハンガリーなどの内陸地域では、2100年までに地域内GDPが最大1%増加すると推定された。その理由について、著者らは、生産拠点が洪水被害を受けた沿岸地域から内陸地域に移転するためである可能性を指摘している。

また、高排出シナリオ下で、物流、公共サービス、建設、公益事業の各部門での目標を絞った投資が英国とEUの経済全体に与える影響はごくわずかであり、一部の地域では経済的損失が減ったが、英国とEUの経済全体に対するコストは無視できる程度だった。目標を絞った投資によって特に恩恵を受けた地域は、英国のリンカーンシャー州、イーストヨークシャー州、ケント州、ドイツのブレーメン州とヴェーザー・エムス州、ベルギーのウェスト・フランデレン州だった。

以上の知見をまとめると、海水準上昇が地域とその経済に及ぼす影響にはばらつきがあり、それに取り組むためには地域独自の経済政策が必要なことが明確に示されている。

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シュプリンガー・ネイチャーは、国連の持続可能な開発目標と、学術論文誌や書籍に掲載されている関連情報や証拠の認知度を高めることに尽力しています。このプレスリリースに記載されている研究は、SDG 13(気候変動に具体的な対策を、Climate Action)に関係しています。詳細については、こちらを参照してください。(https://press.springernature.com/sdgs/24645444

doi:10.1038/s41598-023-48136-y

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