Research Press Release

生態学:伐採された森林でも生態学的活力が大きい

Nature

2022年12月15日

ボルネオ島内の選択的に伐採された森林は、劣化した生態系として分類されることが時々あるが、実は多様性が高く、一定の機能を果たす生態系であるという可能性を示唆した論文が、Natureに掲載される。比較的手付かずの原生林を保護することは極めて重要だが、その一方で、劣化した生態系というレッテルを貼られることが多く、そのため農地に転換されてしまう生態系を保護する価値があるということが、今回の研究で示された。

選択的に伐採された森林やその他の構造が変化した森林は、多くの熱帯地域で主要な植生被覆になりつつある。ボルネオ島内の伐採された熱帯林は、炭素貯蔵量や森林構造の典型的な評価基準によると、劣化した生態系とみなされ、その結果、アブラヤシ農園などの農業目的への転換が認められる。これに対して、それよりも「原始状態」に近い、いわゆる老齢林は、優先的に保護される。老齢林は、炭素の貯蔵や生物多様性の点で価値があるが、伐採された生態系には、複雑なエネルギー論的食物網が存在している。

今回、Yadvinder Malhiたちは、老齢林、伐採林とアブラヤシ農園における植生の一次生産力を評価したうえで、それぞれの場所で哺乳類種や鳥類種の調査を行って、食物のエネルギー経路、つまり光合成エネルギーが太陽光から一連の連鎖反応を経て生物間に分配されるまでの経路を計算した。その結果、伐採林では、この経路を通るエネルギーの総流量が、老齢林におけるエネルギー流量の2.5倍であることが明らかになった。伐採林のエネルギー流量が多い理由は、伐採林が疎林の構造になっていることである可能性が高い。疎林では、地表で植生を摂取しやすく、太陽光が地表まで差し込んでくるために化学防御物質が少なく、栄養価が高く、成長の早い植物種が有利になるため、動物の好みに合った食物ができやすくなるのだ。また、伐採林は、多様な生物種が生息しており、老齢林とほぼ同じレベルの回復力を保持していると考えられる。多様な生物種が生息していることは、生態系が個別種の消失にどう応答するのかを示しているのだ。アブラヤシ農園では、哺乳類や鳥類が消費するエネルギーの割合が伐採林と比較してかなり小さく、生態系の脆弱性も高いことが明らかになった。

大量伐採された森林であっても、活力と多様性のある生態系となり、高い生態学的機能を果たすことがある。こうした伐採林をアブラヤシ農園に転換すると、ほとんどのエネルギー経路が崩壊する。Malhiたちは、この状況下で「劣化」という用語の意味を変えて、一定の機能を果たす生態系を維持する能力を保持している森林を保護する必要があるかもしれないという見解を示している。

doi:10.1038/s41586-022-05523-1

「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。

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