気候変動:エネルギー企業とエネルギー機関の脱炭素化シナリオをパリ協定に照らして評価する
Nature Communications
2022年8月17日
主要ないくつかのエネルギー企業とエネルギー機関が公表している排出量抑制シナリオが、地球温暖化を1.5℃に抑制するというパリ協定の目標に適合していない可能性があることを示唆する論文が、Nature Communications に掲載される。
気温上昇を1.5℃に抑えるというパリ協定の長期目標を達成するさまざまな方法が公表されている。これらの温暖化緩和の経路は、さまざまな部門における計画策定にとって貴重な情報であり、それぞれの部門でいかに迅速に温室効果ガス排出量を削減しなければならないのかを示すために用いられる。温暖化緩和の経路は、公的機関と民間企業から発表されている。
今回、Robert Brechaたちは、エクイノール社、シェル社、BP社、国際エネルギー機関(IEA)の排出量抑制シナリオ(合計6種類)を評価し、これらのシナリオが、全球の気温上昇を1.5℃に抑えるというパリ協定の目標に適合するかどうかを判定した。そして、この評価結果は、気候変動に関する政府間パネルの統合評価モデルシナリオと比較された。Brechaたちは、6種類のシナリオを次の3つの基準に照らして評価した。(1)21世紀末までに気温上昇が1.5℃を超える可能性が低いこと(確率66%未満)と1.5℃の目標を達成する確率が50%であること、(2)気温上昇が2℃未満に抑えられる可能性が非常に高いこと(確率90%以上)、(3)パリ協定第4条に定めるように21世紀末までに温室効果ガス排出量を実質ゼロにすること。その結果、評価したシナリオのうち5種類が1.5℃の気温上昇目標を大幅に超えており、IEAの「2050年までにネットゼロ」シナリオだけが、気温上昇を1.5℃に抑えるというパリ協定の目標に適合していることが示唆された。
Brechaたちは、化石燃料消費量の削減が遅れるシナリオ経路には、目標の1.5℃を超えるリスクがあることが、今回の研究によって得られた知見によって強調されていると結論付けており、エネルギー部門の当事者が透明性を高めて、それぞれの当事者が作成するシナリオによって気候に生じる結果の全体像を明らかにする必要があると主張している。
doi:10.1038/s41467-022-31734-1
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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