Research Press Release

保全:データ不足の生物種の半数以上は絶滅危惧種なのかもしれない

Communications Biology

2022年8月5日

国際自然保護連合(IUCN)の絶滅危惧種レッドリストにおいて生態学的データが不足しているために絶滅リスクの判定ができない生物種(「データ不足種」)の56%が絶滅の危機に瀕している可能性の高いことが明らかになった。この研究知見は、データ不足種の方が、IUCNによって絶滅リスクが判定された生物種よりも絶滅の危機にある種の占める割合が高くなっている可能性を示しており、現在の保全すべき種の優先順位に潜在的な偏りがあることを浮き彫りにしている。これらの知見を報告する論文が、Communications Biology に掲載される。

今回、Jan Borgeltたちは、機械学習アルゴリズムのトレーニングを行って、IUCNのレッドリストの評価が既に行われた2万6363種の絶滅リスクを計算した。この計算は、それぞれの生物種が生息する地理的地域に関する既発表データだけでなく、生物多様性に影響を与えることが知られている諸要因(気候変動、人間による土地利用、侵入種による脅威など)に基づいている。次に、Borgeltたちは、このアルゴリズムを用いて、全てのデータ不足種(7,699種)の絶滅リスクを予想した。

これにより、4336種(56%)のデータ不足種が絶滅の危機に瀕している可能性が高いという推定結果が得られた。これに対して、IUCNレッドリストでは、評価された種の28%が絶滅の危機にあると報告されている。データ不足種の絶滅リスクは、分類群と生息地によって差があり、両生類の85%、条鰭類魚類の40%、哺乳類の61%、爬虫類の59%、昆虫の62%が絶滅する可能性が高いことが分かった。陸上に生息するデータ不足種で、絶滅の危機にある生物種の典型例は、中央アフリカ、南アジア、マダガスカルなどの地域内の小さな地理的区域に生息している。また、世界の海岸線付近に生息するデータ不足の海洋生物種の3分の1から2分の1が絶滅の危機にあるという予想も得られた。

以上の知見は、IUCNによって絶滅危惧種に分類されていない数多くのデータ不足種が絶滅の危機に瀕している可能性が高く、それらの生物種の保全が重要なことを強く示している。Borgeltたちは、これらのデータ不足種の評価をもっと正確に行うことが、保全すべき種の優先順位を修正するために役立ち、データ不足種を持続可能な開発目標や生物多様性目標に取り込む動きを後押しすることになると考えている。

doi:10.1038/s42003-022-03638-9

「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。

「注目のハイライト」記事一覧へ戻る

プライバシーマーク制度