Research Press Release

動物学:ウェッデルアザラシの母親は体内の鉄分を仔の潜水能力向上に役立てている

Nature Communications

2022年8月3日

授乳中のウェッデルアザラシの母親は、肝臓の鉄分を乳に取り込んで仔に与えて、仔の潜水能力を高めていることを示唆した論文が、Nature Communications に掲載される。ただし、この過程のために母親の潜水能力は低下し、潜水が浅くなり、潜水時間も短くなっている。

ウェッデルアザラシは、潜水能力を有することで知られており、最長96分の潜水時間が記録されているが、この能力は、血液と筋肉に含まれる高濃度の鉄含有タンパク質によって支えられている。ウェッデルアザラシは、他のアザラシ科(鰭脚類の3つの科の1つ)の動物と比べて、授乳期が長い(6~7週間)。授乳期の雌のウェッデルアザラシは、主に体内に貯蔵されたエネルギーと栄養素に依存し、体重を100~150 kg失うことがある。また、雌のウェッデルアザラシは、毎年繁殖するわけではないため、繁殖雌と非繁殖雌を複数の季節にわたって比較する機会が得られる。

今回、Michelle Sheroたちは、繁殖雌と非繁殖雌のモニタリングを2010~2017年に実施して、授乳が仔にもたらす利益とそれに伴って繁殖雌が失うものを調べた。Sheroたちは、雌のウェッデルアザラシの血液と乳の含有物だけでなく、授乳の結果として生じる潜水行動の変化を調べた。その結果、雌のウェッデルアザラシがその仔に授乳している時に鉄分の移動を示す指標が上昇したが、非繁殖雌の場合は、これらの指標は上昇しなかった。このことから、繁殖雌が肝臓の鉄分を血液中に移動させて、さらに乳中に移動させ、自らの体内の鉄分の貯蔵量を減らしたことが明らかになった。この過程で、乳に含まれる鉄分が陸生哺乳類の場合の最大100倍になる。Sheroたちは、この過程における鉄分の放出速度が高いために離乳後の雌の体内の鉄分貯蔵量が少なくなり、非繁殖雌と比べて、潜水時間が平均で約5分短くなるという見解を示している。

doi:10.1038/s41467-022-31863-7

「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。

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