Research Press Release

生殖医学:着床前受精胚における一部の一般的疾患のリスク予測

Nature Medicine

2022年3月22日

体外受精(IVF)中の受精胚のゲノム塩基配列、また体外受精後に一般的な疾患(12種類)を発症する遺伝的リスクが、着床前に最高99%の正確度で予測できることが報告された。この最初の知見は、110のヒトの着床前ヒト受精胚でのリスク予測に基づいており、この予測はその後に誕生した10人の子どものゲノムに基づくリスク予測と比較された。これは、受精胚でのゲノムベースの着床前遺伝子検査(PGT)の使用に影響を及ぼす可能性がある。一方、論文著者たちは、遺伝カウンセリングでの取り組みと取り込みが必要となるだろう複数の倫理的問題と実践的問題が存在することに言及している。

IVF治療の間の受精胚のPGTは、現在では単一遺伝子の変異によって生じるまれな疾患(メンデル疾患)を防ぐために用いられている。しかし、より広範囲の一般的疾患(心疾患やがんなど)を評価することはまだ選択肢に入っていない。

A Kumarたちは、IVF治療を受けている10組のカップルのゲノム塩基配列を解読し、この塩基配列データを用いて、110の着床前受精胚の多遺伝子リスクスコア(PRS)を計算した。PRSは疾患リスクを予測する遺伝学的手法であり、これを使えばそれぞれの着床前受精胚での12種類の一般的な疾患(いくつかのがんや心血管代謝疾患など)の発症可能性を予測できる。このようにして得た予測は、その後に生まれた10人の子どものゲノムから得られたリスク予測と比較された。全体的傾向としては、受精後5日目の胚組織から得たデータで計算したPRS予測の正確度は99~99.4%で、3日目の胚組織から得たデータによるPRS予測の正確度は97.2~99.1%だった。それぞれの胚のPRSと親が保有する遺伝子の稀少なバリアント(例えばBRCA1バリアント)に関する情報を組み合わせると、リスク予測のばらつきが改善され、「きょうだい胚」間で15倍の改善が見られた。

Kumarたちは、今回の研究にいくつかの限界があることを明確にしている。例えば、これらのモデルの妥当性は集団データを用いて確認されたが、世代間のばらつきと集団間のばらつきを考えると、この妥当性確認は不完全であることを患者に説明する必要がある。また、この方法では、遺伝的変異のみが考慮され、受胎後に出現する可能性のある新たなバリアントや変異は考慮されていない。また、従来はこの分野の研究コホートはヨーロッパ系の祖先を持つ人々で構成されてきたため、非ヨーロッパ人集団ではPRS予測の有効性が低下する可能性がある。さらに、出生前の意思決定を行う際にPRSを考慮することには倫理的問題と実践的問題があり、これらは遺伝カウンセリングに取り込んで、対処する必要がある。

この論文に関するNews & Viewsでは、生命倫理学者のJ JohnstonとL Matthewsが「PRS情報を取り入れたPGTが実施されると、一般的疾患の環境的・社会的決定要因がさらに軽視されるようになる可能性」があり、「構造的な問題解決」が注目されず、「疾患のリスクを管理する責任」を基本的に個人の手に委ねることになる点に注意を喚起している。

さらに、Commentで述べられているこの論文に関連するN Gleicherたちの見解では、出生前遺伝子検査の限界が論じられており、「多遺伝子リスクスコアはますます強力になってきたが、依然として非常に実験的なものであることには変わりがない」とされている。そして、今後については「生殖医療における遺伝子検査は、厳密な科学に立脚すべきであり、有効性について透明性を保ち、適切な規制を実施する」ことの重要性が強調されている。

doi:10.1038/s41591-022-01735-0

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