新薬開発:ハムスターをSARS-CoV-2から守る抗ウイルス薬
Nature Communications
2022年2月16日
重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)に対する抗ウイルス薬PF-07321332は、ゴールデンハムスターに投与すると、SARS-CoV-2の複数の懸念される変異株の感染に対する防御作用を発揮し、感染伝播のリスクを低減させることを示唆する論文が、Nature Communications に掲載される。
SARS-CoV-2感染症を治療するための安全で有効な抗ウイルス薬が緊急に必要とされている。そうした抗ウイルス薬の有望な標的として、ウイルスの複製を助ける酵素であるSARS-CoV-2メインプロテアーゼが特定されている。これまでに数種類のメインプロテアーゼ阻害剤が、SARS-CoVとSARS-CoV-2の細胞培養モデルと動物モデルにおいて抗ウイルス活性を示している。
今回、Johan Neytsたちは、PF-07321332(PF-332)の抗ウイルス効果を検証するため、SARS-CoV-2感染症(アルファ変異株、ベータ変異株、デルタ変異株)の細胞モデルと動物モデルで実験を行った。概念証明実験として、Neytsたちはまず、哺乳類細胞と初代ヒト気道上皮細胞モデルを使った実験を行い、SARS-CoV-2ウイルス感染を調べ、抗ウイルス化合物を検証した。その結果、PF-332がアルファ株に対して抗ウイルス活性を有することが確認された。次に、ゴールデンハムスターの小グループでPF-332の有効性の検証が行われた。ベータ株またはデルタ株を鼻から感染させたゴールデンハムスターにPF-332を4日間連続で経口投与したところ、SARS-CoV-2感染症の症状や徴候は認められなかった。さらに、6匹のハムスターにデルタ株を感染させ、6匹の非感染個体と混ぜて飼育すると、PF-332を3日間投与されたハムスターはデルタ株を未投与個体に感染伝播させることはなかった。
PF-332は、数か国で緊急使用承認を受けている。Neytsたちは、今回の知見によって、SARS-CoV-2感染症の治療、伝播抑制、転帰改善に有望な抗ウイルス薬としてのPF-332の可能性が明確に示されたという見解を示している。
doi:10.1038/s41467-022-28354-0
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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