創薬:デング熱の有望な治療薬候補
Nature
2021年10月7日
デングウイルス感染のマウスモデルに対する有効性を示したデングウイルス阻害薬について記述した論文が、今週、Nature に掲載される。今回の知見は、今後のデング熱治療薬の開発に役立つ抗ウイルス作用の新たな機構に関する手掛かりになる。
蚊が媒介するウイルス性疾患であるデング熱は、毎年約9600万人が罹患することが報告されており、推定39億人が感染のリスクにさらされており、発生症例数は、この数十年間に急速に増えている。現在のところ、デング熱の予防や治療のための抗ウイルス薬は存在しない。デングウイルスには複数の変異株があるため、万能のデング熱治療薬の創薬は難題であることが分かっている。
今回、Johan Neytsたちは、大規模スクリーニングを実施して、培養細胞でデングウイルスを阻害する化合物を特定した。そして、その中で最も有望な化合物が、デングウイルスの既知の全サブタイプに対して非常に強力な化合物(JNJ-A07)に最適化された。JNJ-A07は、マウスとラットで良好な安全性プロファイルが得られただけでなく、デングウイルス感染のマウスモデルに予防薬と治療薬として経口投与された場合のいずれにおいてもウイルス量を減少させることが明らかになった。Neytsたちは、JNJ-A07が2種類のウイルスタンパク質(NS3とNS4B)の相互作用を遮断することによってウイルスの複製を妨害することを発見し、抗ウイルス作用の全く新しい機構を明らかにした。
同時掲載のNews & Viewsでは、Scott B. BieringとEva Harrisが、「JNJ-A07は、デングウイルスのNS4Bの初めての阻害剤ではないが、最も有望で、詳しく解明されているものの1つである」と述べている。BieringとHarrisは、将来的にヒトでの臨床試験を計画する際には、これまで調べることのできなかった多くの疑問に答える必要があるが、「そうした疑問を検討できるようになったという事実は、デング熱治療薬の分野における大きな前進である」と強調している。
doi:10.1038/s41586-021-03990-6
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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